「遊民経済学」への招待
「遊民経済学」への招待(17)

ラーメンはなぜ快楽なのか

吉崎達彦

 土曜の朝、妻が出かける準備をしている。半分寝ぼけながら様子を窺っていると、どうやら今日は娘が通っている学校の行事があるらしい。娘は既に学校に出かけている。ということは、今日のお父さんはフリーということになる。
 家族が出払って、家に取り残されたお父さんは良からぬことを企んでいる。まずは自家用車で週末恒例の買い物へ。柏市内のクリーニング屋で1週間分のワイシャツを出し、量販店で1週間分のビールを買い込み、ショッピングモールで日用品の買い出しを済ませる。これで週末の任務は完了。そこからクルマは利根川を渡って茨城県に向かう。
 禁断の川越えは久しぶりである。後でカミさんにバレたら何と言われるだろう。医者からも血圧が高いと言われている。体重を減らさなきゃいけないとは思っている。それでも目指すは「ラーメン二郎」の茨城守谷店なのである。

 よく「柏はラーメン激戦区」だと言われる。横浜家系ラーメンでは「王道家」があり、新興勢力の「こってりらーめん誉」(ほまれ)があり、有名どころでは「麺屋こうじ」や「大勝軒」があり、茨城県方面に勢力を張る「角ふじ」があり、北海道系ならば「ひむろ」があり、地元育ちとしては「夢館」がある。これらがすべて柏駅から徒歩圏内にある、という点が「激戦区」と呼ばれる所以なのである。
 ところがラーメン二郎はない。あの濃厚なスープとごつい麺、大盛りの豚肉を味わいたくなったら、松戸市か守谷市へ行くしかない。筆者は後者を選んでいる。あれを食べてしまうと、夜になっても腹が減らないので実は困るのだが、行きたいものは仕方がない。この点、同好の「ジロリアン」諸氏ならば説明は不要であろう。
 筆者の職場は霞ヶ関にある。二郎への欲求が耐え難くなると、お昼に虎の門にある「バリ男」へ行く。ここはいわゆる「インスパイア系」で、麺の太さや脂っこさ、店の雰囲気も二郎もどきである。しかるに麺は常識的な分量であって、やや満足度には欠ける。ニンニクは「ご自分で入れてください」となっていて、妙な呪文などはない。
 さらに禁断症状が深まってくると、いよいよ虎ノ門ヒルズの先まで歩いて行って、ラーメン二郎新橋店を目指す。少し時間はかかるが、客のほとんどがサラリーマンというロケーションだけに、さすがに行列は他店より短いのがありがたい。ラーメン二郎にはめずらしく、トッピングとして煮卵を追加することができる。

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執筆者プロフィール
吉崎達彦
吉崎達彦 双日総合研究所チーフエコノミスト。1960年(昭和35年)富山市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1984年日商岩井(現双日)に入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役などを経て現職。新聞・経済誌・週刊誌等への執筆の他、「サンデープロジェクト」等TVでも活躍。また、自身のホームページ「溜池通信」では、アメリカを中心に世界の政治経済について鋭く分析したレポートを配信中。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『1985年』(新潮新書)など、共著に『ヤバい日本経済』(東洋経済新報社)がある。
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