フォーサイト記事「有料会員アクセス」で振り返る2021年

執筆者:フォーサイト編集部2021年12月31日
カブール陥落は国際社会を深い懐疑の中に突き落とした   ©︎AFP=時事
民主主義、米中冷戦、アフガニスタン、コロナ禍――有料会員の関心を集めた2021年のテーマ。

   2021年もフォーサイトをご愛読いただきありがとうございました。

   年明け早々の1月6日、アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件で強く印象づけられた民主主義の動揺は、2021年を特徴づける憂鬱な通奏低音となりました。バイデン米新政権が国際社会に向けて設定した、価値観の同盟による中国との競争や「対権威主義」というアジェンダは、8月の「カブール陥落」以降、その正当性に対する懐疑の視線を逃れることができません。

   懐疑の視線は、2001年の米同時多発テロ以降、あるいはさらに遡って「冷戦後」の時代そのものにも向けられました。アフガニスタンの国家建設のみならず、たとえばアフリカや中東で進んできた民主化は果たして“正しい”ことだったのか? ミャンマーの軍制復活はどうなのか。2年目に入ったコロナ禍は、人権や社会活動の自由をより強く制限する国でなければ乗り切れないのではなかろうか。

   以下は2021年に配信した全837本の記事の中から、フォーサイト有料会員のアクセス数が多かった記事10本のリストです。

   ウェブマガジンにおいて、アクセス数の多さが単純に「よく読まれた」ことを示すとは言い切れません。一人の筆者が何回も執筆する連載などは当然アクセス数が分散しますし、多数の筆者が様々な角度から執筆したテーマの記事でも同じことが起き得ます。また、単にアクセスがあるだけでなく「どれくらいの時間そこに留まったか(つまり、しっかり読まれたか)」も重要な指標と言えるでしょう。

   とはいえ、2021年のフォーサイト有料会員の関心は、やはり民主主義をめぐる諸問題――米中冷戦、アフガニスタン、コロナ禍の行方などに集まっていたことが窺えます。

 

10位.アフガン崩壊 1975年と2021年「2つの陥落劇」が変える世界(滝田洋一/8月17日)

〈アメリカのトラウマ、1975年のサイゴン陥落と二重写しの光景が、いまカブールで再現される。タリバンと結びユーラシア新グレートゲームの橋頭堡を得た中国が、中東・インド太平洋への進出を加速するのは間違いない。それは地政学的なパワーバランスのみならず、人権など「価値観」の秩序も揺さぶるだろう。世界的な金融緩和で長い平和維持が行われた市場は、数十年に1度の環境激変に見舞われている。〉

9位.米中冷戦が引き起こしたミャンマークーデター(後藤康浩/2月3日)

〈ミャンマーで2月1日朝、国軍が起こしたアウンサンスーチー政権打倒のクーデターは単なる軍政への“先祖返り”とみるべきではない。軍政が世界からの批判、制裁を恐れずに強権的な行動に出たのは、米中冷戦が深刻化するなかで、中国陣営に加われば軍政国家でも十分生き残れるという判断があるからだ。〉

8位.ドキュメント3・11 イギリス大使館はなぜ「真実」を見抜けたか[上](西川恵/3月8日)

〈2011年3月11日に発生した東日本大震災・福島第1原発事故による大混乱の最中、イギリス大使館は放射性物質の飛散リスクなどについて的確な情報を発信し続け、外国人のみならず日本人にとっても信頼できる貴重な情報ソースとなった。その指揮を執ったデビッド・ウォレン元駐日大使への直接取材で再現する、危機対応とパブリック・ディプロマシー(広報文化外交)のケーススタディー。〉

7位.はじめに――「中華帝国」と「悪党たち」(岡本隆司/4月29日)

〈「悪党たち」の背後に隠れた客観的実像をつきとめ、なぜ悪評が必要だったのか、そんな機微も解き明かしつつ、史料を批判的に読みなおしてゆくことは、「古今の人物を罵る」ばかりでなく、「中華帝国」というステレオタイプで観念してきた中国史像全体をみなおすことにもつながるのではないか。〉

6位.習近平を毛沢東と重ねてはいけない:中国共産党が直面する「民意の先取り」という難題(宮本雄二/5月10日)

〈習近平体制の本質は、江沢民・胡錦濤時代よりも権力集中的だが「集団指導制」のままだと言える。毛沢東の教訓――鄧小平の国民に見放されることへの恐怖は今も変わらず、政権は豊かな市民の価値観に応じながらその「統治の正当性」を維持するという、複雑な舵取りの只中にいる。〉

5位.アフガン崩壊:米撤退でヨーロッパに広がる「憤り」と「無力感」(鶴岡路人/8月26日)

〈アフガン関与は「NATOの戦争」だったからこそ、米軍の一方的撤退に対する憤りが湧き出した欧州諸国。だが逆に、米軍が抜ければ作戦遂行が不可能、という事実も突き付けられた。一体化か、自律か――必要なのはこの20年の検証と総括だ。〉

4位.中国の「台湾武力統一」最有力ケースをシミュレートする(岩田清文/4月21日)

〈菅義偉首相とジョー・バイデン大統領による初の首脳会談の結果、日米共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。日米首脳の合意文書に「台湾」が盛り込まれるのは、日中国交正常化前の佐藤・ニクソン声明以来、実に52年ぶりだ。その背景には、万が一「台湾有事」が生起すれば日本にとって“対岸の火事”ではないという現実がある。軍事的に最も合理的と思われるシミュレーションに基づき、元自衛隊最高幹部が“眼前に迫った危機”に警鐘を鳴らす。〉

3位.アメリカに「日印」を抜いた「AUKUS」が必要な理由(伊藤俊幸/10月4日)

〈米英豪による安全保障上の新たな枠組み「AUKUS」は、なぜ必要とされたのか。日米豪印からなる「QUAD」との決定的な違いと、オーストラリアが原子力潜水艦を取得する際のハードルについて元海将が解説する。〉

2位.国民安全保障国家論――緊急提言「ポスト・コロナ時代」の国家構想[上](船橋洋一/9月21日)

〈コロナ危機は日本の「有事」に対する脆弱性を極めて明確に教えている。政府・国家の体制、法制、組織文化、リーダーシップにビジョンとガバナンスを欠いたその姿は、戦後日本が安全保障の観点から国家統治を見直す機会を先送りしてきたからに他ならない。政府と国民が自らを守るために協業する国家と社会の形=「国民安全保障国家」(national security state)の構築を急げ。〉

1位.アフガン崩壊:「最も長い戦争」を強制リセットしたバイデンの「アメリカ・ファースト」(中山俊宏/8月21日)

〈バイデン政権はアフガニスタンで何を誤ったのか。中山俊宏・慶應義塾大学教授は「撤退の是非そのものではなくて、あくまでそのタイミングと手法」とし、こう言う。「米軍がいれば戦い続けたであろう国軍の正当性を、撤退の決定によって奪い、自ら作り上げた軍隊を自らの手で融解させてしまったことだ」。そして、決定の背後に浮かび上がるバイデン政権「アメリカ・ファースト」の本質。〉

 

   明日からの2022年も、どうぞフォーサイトを思索のお供に。

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