国民安全保障国家論――緊急提言「ポスト・コロナ時代」の国家構想(上)

執筆者:船橋洋一 2021年9月21日
その場しのぎの“泥縄貧乏”が構造的に日本を危機に弱い国にしている(羽田空港で検査の様子を視察する菅義偉首相) ⓒ時事
コロナ危機は日本の「有事」に対する脆弱性を極めて明確に教えている。政府・国家の体制、法制、組織文化、リーダーシップにビジョンとガバナンスを欠いたその姿は、戦後日本が安全保障の観点から国家統治を見直す機会を先送りしてきたからに他ならない。政府と国民が自らを守るために協業する国家と社会の形=「国民安全保障国家」(national security state)の構築を急げ。

平時不作為体制が“泥縄貧乏”の危機対応を生む

   菅義偉首相の退陣は、1年前の安倍晋三首相の辞任同様、コロナ危機の下、日本の政治指導者が政府の危機管理体制不全と国民との信頼関係の欠如と自身の肉体的あるいは政治的な極度のストレスを克服できないまま「泥縄」の対応を重ねた挙句、退場を迫られた、すなわち国家的危機における危機管理の失敗の帰結でもある。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
船橋洋一(ふなばしよういち) アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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