国民安全保障国家論――緊急提言「ポスト・コロナ時代」の国家構想(下)

執筆者:船橋洋一 2021年9月22日
タグ: 日本
(東京都の新型コロナワクチン大規模接種センターに向かう自衛官ら) ⓒ時事
平時を前提とする戦後日本の「平和憲法国家」観は、一方で最悪のシナリオへの備えを遠ざける「平時不作為体制」継続にも繋がってきた。コロナ禍のみならず具体的な軍事脅威のリスクも高まるいま、ポスト・コロナの日本は憲法第13条の「全体の生命権と生存権」と「個人の自由と人権」の間に極限の均衡点を追求する必要がある。

国家安全保障リテラシー欠如の歴史的背景

 なぜ、日本では国家安全保障リテラシーが向上しないのか。そこには歴史的かつ構造的な背景がある。①リスクと脅威をありのままに見ることへの社会心理的かつ政治的抵抗感②安全保障政策に対する法律論とイデオロギーの過剰③教育現場において防衛・安全保障テーマを扱うことへの忌避感、などである。

 日本では戦後長い間、国家安全保障は公共空間においてはできれば触れたくない、歓迎されない、そして政治家にとっては票にならないテーマであり続けてきた。戦後、長い間、自衛隊は日陰者扱いにされ、政治家はそれを正面から正そうとはしなかった。それが変わったのは、3・11東日本大震災での自衛隊の住民救出作戦からであり、いまでは自衛隊は国民にとって日本で「もっとも信頼できる公共機関」となったが、いまだに自衛隊の本来任務に関する国民の受け止め方はアンビバレントである。日本では、政府、軍、国民の間の相互の協力関係のあるべき姿が描けていない。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
船橋洋一(ふなばしよういち) アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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