フォーサイト記事「有料会員アクセス」で振り返る2022年

執筆者:フォーサイト編集部2022年12月31日
ウクライナの一部の教会では正教会の慣習である1月7日ではなく12月25日にクリスマスを祝った。戦争の長期化とともに、キエフとモスクワの宗教指導者の間の溝も深まっている[キエフ、2022年12月25日](C)AFP=時事
エスカレーション抑止、クラウゼヴィッツ、NATO拡大、攻撃的リアリズムーー有料会員の関心を集めた2022年のテーマ。

 2022年もご愛読いただきありがとうございました。

 秋に中国共産党大会とアメリカ中間選挙を控え、少なくともそれまでは国際情勢に大きな動きは起きにくいと考えられていた2022年は、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で激動の1年になりました。海の向こうで戦争が始まる。国際社会を襲ったコロナ禍に続く新たな試練は、資源エネルギー価格高騰などによって私たちの生活に濃い影を落としたのみならず、安全保障や日米同盟、あるいはアメリカに対する日本社会の深層心理を浮かび上がらせる、おそらくイラク戦争以来の契機にもなりました。

「エスカレーションラダー」「攻撃的リアリズム」といった、従来はアカデミズムでの議論にとどまりがちだったテーマに踏み込んで行けたのは、ひとえに執筆陣のお力添えの賜物です。内外情勢を捉えるうえでメディアに求められる解像度は、かつてないほどに高まっていることを実感します。

 以下は本年配信した全869本の記事の中から、フォーサイト有料会員のアクセス数が多かった記事10本のリストです。

 アクセス数だけが「よく読まれた」ことを示す指標ではありませんし、当然ながら年の後半に公開された記事は不利ですが、2022年を振り返る手がかりにお役立ていただければ幸いです。

フォーサイト編集部

 

 

10位.プーチンの主張する「NATO不拡大約束」は、なぜ無かったと言えるのか(鶴岡路人/3月2日)

〈ウクライナ危機の最大の争点の1つ、「NATO不拡大」。ロシアは西側が冷戦終結時におこなったNATO不拡大の約束が「破られてきた」と主張するが、根拠とされるベーカー・ゴルバチョフ会談はあくまでもドイツ統一の文脈であり議論の対象は旧東ドイツ地域だった。さらにロシアは90年代以降、NATO拡大を容認する「手打ち」を行ってきた。〉

 

9位.ミアシャイマー「攻撃的リアリズム」の読み方――ウクライナ侵攻「代理戦争論」「陰謀論」の根本的誤り[上](篠田英朗/4月22日)

〈ウクライナ「代理戦争」論者、陰謀論者が俄かに引き合いに出す政治学者ミアシャイマーだが、多くの場合その攻撃的リアリズム理論は誤用されている。ミアシャイマーはアメリカ外交がウクライナに「緩衝地帯」以上の地位を与えたことを批判しており、「アメリカがウクライナをけしかけて戦争させた」などとは述べていない。〉

 

8位.NATO拡大がウクライナ危機を招いたのか?(フランシス・フクヤマ/2月25日)

〈仮に侵攻が「限定的」なものに止まっても、ウクライナはその全体が死に晒されていると見るべきだ。プーチンは「民主主義の失敗」を示すまで止まらない。NATO拡大がロシアを戦略的競争相手に変えたというような歴史修正主義的な捉え方は、プーチンの「冷戦終結の結果をすべて覆す」という明白な目的を覆い隠す危険がある。〉

 

7位.ロシアの「ウクライナ3都市」同時侵攻のシナリオ(藤村純佳/2月7日)

〈ウクライナ侵攻で占領するのはドネツク・ルガンスクの東部分離地域のみか、ドニエプル川以東か、あるいは黒海沿岸か。米戦略国際問題研究所(CSIS)が公開したウクライナ侵攻の6つの可能性を解説しつつ、筆者は首都キエフ、第2の都市ハリコフ、黒海沿岸オデッサの3都市が同時に侵攻されるシナリオを描く。〉

 

6位.市民を「巻き添え」でなく「ターゲット」にしたロシア:ウクライナ侵攻という「クラウゼヴィッツの鬼子」(高橋杉雄/3月13日)

〈プーチンは確かに理解不能な軍事行動を続けているが、それを「狂った」と片付ければ重要な本質を見落とすだろう。侵攻目的はウクライナの占領自体にはなく、社会をいかに傷つけ破壊して、将来にわたるNATO非加盟と東部地方分離を認めさせるかという政治的要素にあるはずだ。この「傷つける力」という19世紀的な武力行使観のもとで、侵攻の遅れ自体はさして問題でなく、また市民は社会を破壊するための明確なターゲットになると言える。〉

 

5位.ウクライナ侵攻で習近平が懸念する「プーチン支持の内政的リスク」(宮本雄二/3月4日)

〈「戦狼外交」だけでは国民に具体的成果を見せられず、中国の外交は微妙な方向転換を図っている。確かに「ロシアとの良好な関係」は有効なカードであり得るが、そのロシアに国内外の批判が高まれば、逆に「習近平の判断」自体の問題視にも繋がるのだ。〉

 

4位.「ウクライナ後」に想定すべき新経済圏「中ロ・ユーラシア同盟」の不気味な潜在力[上](後藤康浩/3月22日)

〈ロシアのウクライナ侵攻は米中冷戦という歴史的文脈と切り離せない。中ロの安全保障面での潜在的な対立構図は残っても、経済連携は急速に深まって行く可能性が高いだろう。ここで誕生する新経済圏は、カザフスタンやイランあるいはインドなど、資源量と人口そして米国との政治的距離によって影響力を持つユーラシアの国々を取り込みながら拡大する可能性がある。〉

 

3位.【緊急対談】ロシア軍「不可解な作戦」から見えるプーチンの本音[上](高橋杉雄・小泉悠/5月9日)

〈分散化する空爆対象、地上部隊と航空部隊の連携欠如、現場司令官の不在。ロシア軍の不可解な作戦から、どのようなプーチンの軍事戦略が見えるのか。防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏と東京大学専任講師の小泉悠氏が緊急対談を行った。〉

 

2位.「停戦後、和平前」の支援開始という挑戦:ミンダナオ平和構築「継ぎ目のない支援」の現場 [1](谷口美代子/10月29日)

〈難民・国内避難民が急増したポスト冷戦型の紛争で、緊急の人道支援とその後の開発支援をいかに「継ぎ目なく(seamless)」実行するかは大きな課題であり続けた。インフラやコミュニティの復興は急務だが、一方で支援の公平性と正統性を確保する壁もある。このギャップ問題に取り組んだフィリピン・ミンダナオ平和構築支援、20年の現実と教訓。〉

 

1位.ロシア「核恫喝からのエスカレーション」を止める唯一の方法――核をめぐる安全保障課題と日本の対応(村野将/3月11日)

〈ウクライナ危機でプーチン大統領がとった核恫喝は、「核武装した現状変更国」が状況を意図的にエスカレートさせることで相手に妥協を強いる「エスカレーション抑止(escalate to de-escalate)」戦略だと理解できる。これに緊張緩和を最優先する一見“常識的”な回避志向で臨むことは、我々が望む方法とタイミングで危機を収束させるための主導権を手放すことになりかねない。〉

 

 明日からの2023年も、どうぞフォーサイトを思索のお供に。

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