NATO拡大がウクライナ危機を招いたのか?

2月24日朝、キエフ独立広場で祈る女性 (C)AFP=時事
仮に侵攻が「限定的」なものに止まっても、ウクライナはその全体が死に晒されていると見るべきだ。プーチンは「民主主義の失敗」を示すまで止まらない。NATO拡大がロシアを戦略的競争相手に変えたというような歴史修正主義的な捉え方は、プーチンの「冷戦終結の結果をすべて覆す」という明白な目的を覆い隠す危険がある。

 ついに起きてしまった。何週間もかけて徐々に戦力を増強してきたロシア軍は、2月21日、ウラジーミル・プーチン大統領がドネツク州とルガンスク州の親ロシア派支配地域の独立を一方的に承認した後、ウクライナに侵攻した。ロシア政府は「大量虐殺」や「ファシスト」、「平和維持軍」などの言葉に、まるでジョージ・オーウェルの『1984』のように本来とは逆の意味を持たせている。19万人のロシア軍に囲まれたウクライナが、ドンバスへの大規模な攻撃とロシアへの侵攻を計画しているというプーチンの口実は、あまりにも見え透いており、馬鹿げている。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
フランシス・フクヤマ(Francis Fukuyama)(ふらんしすふくやま) スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所オリヴィエ・ノメリニ上級研究員。1952年シカゴ生まれ。コーネル大学卒、ハーバード大学で政治学博士号取得後、米国務省に入省。国務省政策企画部次長、ランド研究所顧問、ジョンズ・ホプキンズ大学教授などを歴任し、『ナショナル・インタレスト』誌に発表した論文「歴史の終わり」は世界的な反響を呼んだ。邦訳著書に『新版 歴史の終わり』『IDENTITY 尊厳の欲求と憤りの政治』『政治の衰退』『政治の起源 人類以前からフランス革命まで』など。
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