「平和構築」最前線を考える (38)

ミアシャイマー「攻撃的リアリズム」の読み方――ウクライナ侵攻「代理戦争論」「陰謀論」の根本的誤り(上)

ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授(同氏HPより)
ウクライナ「代理戦争」論者、陰謀論者が俄かに引き合いに出す政治学者ミアシャイマーだが、多くの場合その攻撃的リアリズム理論は誤用されている。ミアシャイマーはアメリカ外交がウクライナに「緩衝地帯」以上の地位を与えたことを批判しており、「アメリカがウクライナをけしかけて戦争させた」などとは述べていない。 (後編はこちらのリンク先からお読みいただけます)

 ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、話題となっているのが、米国シカゴ大学の著名な国際政治学者ジョン・ミアシャイマー(1947~)である。ミアシャイマーは、2014年のロシアによるクリミア併合時に、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大が構造的要因であるという見解を示すと同時に、その後のウクライナ政府とNATOとの接近の危険性に警鐘を鳴らしていた学者だ。

 ミアシャイマーの見解はロシア政府にも取り上げられ、日本における「陰謀論者」にまで影響を与えてしまっている。彼らはミアシャイマーの言説を参照して、“ロシアは悪くない、戦争はNATOの代理戦争だ”といったことを唱える。人命が失われている状況の中で、ミアシャイマーの知名度を、特定の政治イデオロギー立場を主張するために悪用する風潮には警鐘を鳴らさざるを得ない。

カテゴリ: 軍事・防衛 政治
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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