「平和構築」最前線を考える
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ロシア・ウクライナ戦争における「抑止」の二重構造

昨年9月、「キーウ安全保障協約」に関する文書を持つ、ウクライナのイェルマーク大統領府長官(左)とラスムセン前NATO事務総長 (C)EPA=時事
ロシアのウクライナへの本格的な軍事侵略が始まって、1年が過ぎた。電撃的な作戦でキーウ制圧を狙ったロシア軍の目論見が挫折し、ウクライナ軍が盛り返した後、冬に入ってから戦局は膠着状態に陥っており、今後の展開が読みにくい状況になっている。
冬の前に、もう少しどちらかに有利な展開になっていたら、戦争の行方も読みやすくなっていただろう。だが現状では、次に戦局がどう動くのか、まだ見極めにくい。
ロシア軍は、ウクライナ軍の実力を過小評価していたために、昨年春以降は確保した領地を手放して押し戻され続けた。しかし総動員体制をとって消耗戦に持ち込むことによって、膠着状態を作り出した。ウクライナが攻めきれなかったのは、物量に勝るロシア軍を圧倒できなかったからである。ウクライナが善戦しているのはNATO(北大西洋条約機構)構成諸国の大規模な軍事支援があるからなのだが、ウクライナが攻めあぐねているのはその軍事支援に制約があるからである。
再び春が到来する今、あらためて戦局の流動性が高まる可能性はある。だがそれにしても現在の膠着状態は、構造的な事情で生まれてきている面もあり、変化の兆しを読み取るのは簡単ではない。一度作られた構図は、そう簡単には崩れていかない。
侵攻開始1年の節目にあたって、現在の戦争の構図をあらためて確認してみたい。それは二重の抑止によって特徴付けられる構図である。……

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