「平和構築」最前線を考える (47)

ロシア・ウクライナ戦争における「抑止」の二重構造

昨年9月、「キーウ安全保障協約」に関する文書を持つ、ウクライナのイェルマーク大統領府長官(左)とラスムセン前NATO事務総長 (C)EPA=時事
「核抑止」は効いているものの「侵略の抑止」は機能していないという状況で膠着化しているロシア・ウクライナ戦争。現在と将来の侵略を抑止するには、ウクライナの抗戦意思と軍事力が必要であり、それを可能にする国際安全保障体制の確立が求められる。

 ロシアのウクライナへの本格的な軍事侵略が始まって、1年が過ぎた。電撃的な作戦でキーウ制圧を狙ったロシア軍の目論見が挫折し、ウクライナ軍が盛り返した後、冬に入ってから戦局は膠着状態に陥っており、今後の展開が読みにくい状況になっている。

 冬の前に、もう少しどちらかに有利な展開になっていたら、戦争の行方も読みやすくなっていただろう。だが現状では、次に戦局がどう動くのか、まだ見極めにくい。

 ロシア軍は、ウクライナ軍の実力を過小評価していたために、昨年春以降は確保した領地を手放して押し戻され続けた。しかし総動員体制をとって消耗戦に持ち込むことによって、膠着状態を作り出した。ウクライナが攻めきれなかったのは、物量に勝るロシア軍を圧倒できなかったからである。ウクライナが善戦しているのはNATO(北大西洋条約機構)構成諸国の大規模な軍事支援があるからなのだが、ウクライナが攻めあぐねているのはその軍事支援に制約があるからである。

 再び春が到来する今、あらためて戦局の流動性が高まる可能性はある。だがそれにしても現在の膠着状態は、構造的な事情で生まれてきている面もあり、変化の兆しを読み取るのは簡単ではない。一度作られた構図は、そう簡単には崩れていかない。

 侵攻開始1年の節目にあたって、現在の戦争の構図をあらためて確認してみたい。それは二重の抑止によって特徴付けられる構図である。……

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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