欧州の女帝・メルケルの正体

執筆者:佐藤伸行 2012年1月3日
エリア: ヨーロッパ

 欧州債務・信用危機の嵐が吹き荒れる中、去る12月にブリュッセルで開催された欧州連合(EU)首脳会議。アンゲラ・メルケル独首相(57)とサルコジ仏大統領のいわゆる「メルコジ・コンビ」は、危機収束の特効薬として期待されていたユーロ共通債導入案を退け、ドイツ式財政規律によってユーロ圏17カ国を厳しく管理しようという「財政同盟」創設に向けた新条約締結計画を押し通した。
 会議では、新たな「主権放棄」にアレルギー反応を示し、頑なに抵抗した英国のキャメロン首相が新条約締結プロセスから弾き飛ばされる外交的乱闘劇も繰り広げられたが、自説を曲げることのなかったメルケルは悠々、ベルリンに凱旋した。メルケルの与党・キリスト教民主同盟(CDU)も、「財政安定に向けたドイツの立場を貫き通すことに成功した」とドイツの大勝利を宣言した。
 新条約案は2012年1月中の合意が目標とされた。ユーロ圏のうち過半数の9カ国の批准で発効することも取り決められ、メルケルは信用危機克服に向け、財政同盟という「堅牢な要塞」の建設へ音頭を取ることになる。

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執筆者プロフィール
佐藤伸行(さとうのぶゆき) 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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