「遊民経済学」への招待
「遊民経済学」への招待(19)

日米の映画産業について考えてみる

吉崎達彦
執筆者:吉崎達彦 2015年12月12日
エリア: 北米 日本

 年の瀬である。「たまには」と思って、週末に封切りしたばかりの『007/スペクター』(ソニー・ピクチャーズ)を見てきた。
 いちおうのお作法として、ネタバレのない程度に感想をかるく述べておく。前作『スカイフォール』もそうだったが、ダニエル・クレイグ主演のジェームズ・ボンドは、本人の生い立ちや職場環境(もちろんMI6のことだ)が細かく描かれていて、キャラが立体的に見える。このことが物語に奥行きを与えていて、シリーズの中でも「当たり」に属する方ではないかと思う。これに比べると、昔のショーン・コネリーはやたらと強いばっかりだったし、ロジャー・ムーアはまるで漫画の主人公のようであった。6代目ボンドのダニエル・クレイグ、なかなかいいですよ。

『007』シリーズ24作目は12月4日に公開された

 しかるに主人公がリアルになると、今度は敵役の作り方が難しくなる。今回の悪役もよくできているのだが、あいにく悪の秘密結社たる「スペクター」がどういう行動原理を持っているのかが分かりにくい。多彩な人材を擁する邪悪な組織であるらしいのだが、カネが目当てなのか、権力を欲しているのか、それとも単に私怨を晴らしたいだけなのか。
 まあ、こんなことを言うのはないものねだりである。昔の『007』シリーズは東西冷戦時代が舞台であったから、「倒すべき絶対的な悪」があった。今はそんなものは存在しない。今日の世界でいちばん怖いのは「イスラム国」ことISILであろうが、じゃあ「イスラム原理主義集団」を悪役にする映画が作れるかというと、ハリウッドとしてもそんなわけにはいかない。難しい世の中なのだ。

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執筆者プロフィール
吉崎達彦
吉崎達彦 双日総合研究所チーフエコノミスト。1960年(昭和35年)富山市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1984年日商岩井(現双日)に入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役などを経て現職。新聞・経済誌・週刊誌等への執筆の他、「サンデープロジェクト」等TVでも活躍。また、自身のホームページ「溜池通信」では、アメリカを中心に世界の政治経済について鋭く分析したレポートを配信中。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『1985年』(新潮新書)など、共著に『ヤバい日本経済』(東洋経済新報社)がある。
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