連載小説 Δ(デルタ)(30)

執筆者:杉山隆男 2017年11月11日
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

ヘリコプター空母と称される、海上自衛隊最大の護衛艦「かが」。その飛行甲板に、陸自特殊部隊「デルタ」のメンバーが降り立った。「かが」乗組員が「デルタ」の任務をそれとなく察知している様子が、あちこちでうかがえる。だが、感慨にふける暇はなかった。作戦司令部からメールが届いた。〈愛国義勇軍が魚釣島に上陸〉――。

 

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 愛国義勇軍の男たちが「うおつり」に搭載されているゾディアックタイプの高速ボートに乗り移り、魚釣島に向かったことは、階段の上、爆破で出入り口の扉が吹き飛んでしまった甲板の方から、男たちのきびきびとした指示の声が静まり、やがてひとしきり大きくなったボートのエンジン音の唸りがしだいに遠ざかっていったことから、市川も察知した。

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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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