「自分のお金」はどう使われているのか?

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2012年2月28日
エリア: ヨーロッパ 日本

 自分はまじめに働き、規則を守り、善良な市民生活を送っている――多くの人は、そう信じていると思う。もちろん武器売買など血なまぐさいこととは無縁だ、と。
 しかし、本当に無縁と言い切れますか?――こんなキャンペーンがベルギーで展開された。「あなたが預金している銀行は絶対に兵器産業に融資していないのでしょうか?」
 アンケートを受けた1050人のベルギー人のうち、5人に4人は、自分の銀行が兵器産業に融資していないかどうか知らないと答えた。このうち3割が、もし自分の銀行が兵器産業に融資しているならば、預金先を変えたいと思うと回答した。

成長する「ソーシャルバンク」

トリオドス銀行のブリュッセル支店(筆者撮影)
トリオドス銀行のブリュッセル支店(筆者撮影)

 キャンペーンを展開したのは「トリオドス銀行」。「預金者や投資家は、自分の金が金融機関にどう使われているか、もっと関心を持たねばならないし、銀行側は融資の元手は、あくまでも他人から預かった貯金なのだという、強い自覚と戒めが必要」というのが、この銀行の理念だ。  トリオドス銀行は、融資先を地域社会や環境に貢献すると判断されるプロジェクトに絞る「ソーシャルバンク」の先駆けで、武器産業、劣悪な労働環境を強いる企業、環境破壊の危険がある産業、原発関連企業などは、融資先から完全に排除している。融資審査をクリアするのは、有機栽培農業、再生エネルギープロジェクト、障害者や若者の雇用促進につながる事業など。だが、事業者の熱意も重視し、銀行は「融資」で終わらず、事業の相談にも乗る「パートナー」となる。  巷に学生運動の嵐が吹き荒れた1968年、4人のオランダ人(経済学者、ビジネスコンサルタント、銀行員、税法教授)が集まり、金融を使った社会変革を徹底的に議論した。その中で生まれたのが、この銀行の理念。現在では、オランダのほか、ベルギー、イギリス、スペイン、ドイツに広がり、2011年上半期には5カ国で、前年同期に比べて預金者数が11%(3万1000人)増え、資産も7%(37億ユーロ)増。同様の理念をもつイタリア倫理銀行でも、預金額は3年連続で上昇し、前年比で11%増えている。こうしたソーシャルバンクは、欧州経済危機のなか不良債権を抱える大銀行をよそに、20%の急成長を遂げていた5年前より減速したとはいえ、小規模ながらも独自の信念に基づくビジネスモデルで地道に成長を続けている。 「巨額の損失を出したくせに、高額のボーナスを受け取る大銀行幹部にはうんざり」という周囲の仲間が銀行を変え始めたのを機に、筆者もトリオドス銀行に口座を開設してみた。魅力はやはり投資先の透明性。融資事業の紹介によって、地場産業にも興味がわいてくる。「あなたのお金の行き先」(Know where your money goes)としての、「事業主の顔」が見えてくる。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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