政府を動かすアメリカの「イルカ神話」

執筆者:ルイーズ・ブランソン 2003年5月号
エリア: 北米

ツナ缶の原料となるマグロが、“イルカを傷つけない”漁法で捕られたか否か――これがアメリカで大論争になっている。[ワシントン発]アメリカ人は昔から、イルカに格別の思い入れを抱いてきた。波間を陽気に跳ね回る姿を愛し、海で人間を守るその賢さに惜しみない賛辞を贈るのだ。だが、こうしたイメージは、TVシリーズ『わんぱくフリッパー』で作り上げられたものに他ならない。「フリッパー」という名のイルカと少年たちとの友情を描いたこのシリーズは、米テレビ史上屈指の人気番組として一九六〇年代以降、くり返し放映されており、今なおイルカ人気に翳りは見られない。 フロリダ沖を初め、全米各地で野生のイルカと泳ぐ企画を盛り込んだツアーが増えているのも、イルカとの間に特別の絆を感じているアメリカ人の心情を物語るものだ。「イルカは、私たちの心の扉を開き、魂の奥深くに語りかけてくる」――あるパンフレットには、そう謳われている。そしてガイドは、イルカとともに泳ぐことの効用をツアー参加者に訴える。「野生のイルカの瞳をのぞき込んだとき、そこに無償の愛と安心感を見てとることができた」と。 ブッシュ政権が昨年暮れ、ツナ缶の「ドルフィン・セーフ(イルカに無害)」という消費者向け表示の規制緩和を打ち出したとたん囂々たる非難の声がわき起こった背景には、こうしたアメリカ人の心情があった。元々この表示は、ツナ缶の原料であるマグロを捕獲する際、「イルカを傷つけるような漁法をとっていない」ことを証明するものだった。ところが、ブッシュ政権はその基準を変えようとしたのだ。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
ルイーズ・ブランソン イギリス出身。英『サンデー・タイムズ』紙モスクワ支局長を経てフリーランスに。米『ワシントン・ポスト』紙元モスクワ支局長で夫のダスコ・ドーダー氏との共著に『ミハイル・ゴルバチョフ』『ミロシェビッチ――暴君のポートレイト』がある。
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
価値あるバックナンバー
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
最新コメント
最新トピック
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順