北朝鮮労働党規約改正のポイント

平井久志
執筆者:平井久志 2011年1月12日
カテゴリ: 政治 国際
エリア: 朝鮮半島

 北朝鮮は昨年9月28日に朝鮮労働党代表者会を開催して労働党の規約を改正した。しかし、その改正内容について発表はなかった。但し、「党規約改正に関する朝鮮労働党代表者会の決定書」については同9月29日付労働新聞にその内容が掲載された。また、改正された党規約の「序文」部分については9月29日午前の朝鮮中央放送などで報道された。しかし、条文の部分のどこがどのように改正されたかについては不明なままであった。

 これに対して、韓国の連合ニュースが今年1月6日に韓国政府消息筋の話として、規約本文部分の改正内容について報じた。韓国の主要新聞も同じ内容を7日付で報じており、韓国政府が改正された規約を入手し、韓国メディアにブリーイングを行ったものとみられる。

  連合ニュースが伝えた改正内容は以下の通り。

 ①   旧規約第21条は「党の最高指導機関は党大会である。党大会は5年に1回、党中央委員会が招集する。党中央委員会は必要に応じて党大会の召集を繰り上げるかあるいは延期することができる。党中央委員会は党大会の召集日時と議案を3カ月前に公表しなければならない」とあるが、「党大会は5年に1回、党中央委員会が招集する」との部分を削除し、「3カ月前に公表」を「6カ月前に公表」と改正

(この改正は本来は5年に一度開催が義務化されている党大会を(前倒し、延期も可能という但し書きもあるが)、定期的に開催しなくてもよくする措置である。② にある党代表者会の権限拡大と併せて考えれば、党の重大な路線決定において必ずしも党大会を開かなくてもよいということで、党代表者会で代行する方針とみられる。やはり、北朝鮮では党大会は「勝利の祭典」であり、成果もなく開けないという雰囲気があるのであろう。)

②   旧規約第30条の「党代表者会は党の路線と政策および戦略・戦術に関する緊急な問題を討議決定し、自己の義務を果たしていない党中央委員会委員、委員候補、準委員候補を召喚し、委員および委員候補、準委員候補の補欠選挙を行う」との条項で、党代表者会に党最高機関選挙や党規約改正の権限を付与するように改正。

(旧規約では党代表者会の権限は「党の路線と政策および戦略・戦術に関する緊急な問題を討議決定」と、職務遂行ができない「中央委員や中央委員候補の補欠選挙」に限定されていた。この旧規約を厳格に解釈するなら、昨年9月の党代表者会で党規約を改正し、中央委員、中央委員候補の全員を選出したことは規約違反である。その意味で、今回の党代表者会の決定事項を、党規約違反にならないように追認した措置ともいえる。また、今後も、党大会を開催せずに、今回の党代表者会開催のような形式で党大会を代行する措置でもあろう)

 ③   党総書記が党中央軍事委員長を兼任するように規定。「党総書記は党の首班であり、党を代表し、全党を領導する」と規定。

(党中央軍事委員長を党総書記の兼務ポストにすることを党規約に明記した上で、元の党規約になかった党総書記の権限を明確にした。これで金正恩党中央軍事委副委員長は、党総書記のポストを得れば自動的に党中央軍事委員長のポストも得ることができることになった。だが、逆な見方をすれば、党総書記にならない限り、党中央軍事委員長にはなれないことになった。これで、金日成主席が党総書記でありながら、金正日氏が93年4月に国防委員長に就任したようなことはやりにくくなった。但し、この時も、国防委員長は国家主席の兼務職だったが、それを無視して金正日は国防委員長になっているのではあるが。)

 ④   党中央軍事委員会が党大会と党大会の間に、すべての軍事事業を組織、指導し、国防事業全般を指導することができるように権限を付与

(これまでは党中央軍事委員会の権限は「党の軍事政策を貫徹する対策を討議決定し、人民軍をはじめ武力全般を強化し、軍需生産を発展させる事業を指導し、わが国の武力を統括する」とあったが、「国防事業全般」というややあいまいな表現を使うことで、党中央軍事委の権限を強化したものとみられる)

 ⑤   軍と党の関係について党規約で「党の領導下ですべての政治活動を進行する」「各部隊内に派遣された政治委員たちは党の代表であり、部隊の全体事業の責任を負い、掌握、指導する」と明記。

(ここでは先軍政治にもかかわらず、軍に対する党の指導を明確化した。今回の党代表者会が、先軍時代にあっての党の再建を目指したものであることを示す改正内容でもある。北朝鮮は憲法でも「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の領導の下にすべての活動を行う」としており、党規約でも党の役割を明文化した)

⑥   「朝鮮人民軍総政治局は人民軍党委員会の執行部として党中央委員会部署と同じ権能を持って事業を行う」と規定。

(これは軍総政治局が軍内部の組織であるにもかかわらず、党中央委員会の一部を構成する「部」と同じ権能を持つことを明記したもので、軍の政治部門を党中央の一部にするというもので、党の指導を組織的にも確認した条項である)

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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