紛争解決で見せた中印「阿吽の呼吸」(その2)

執筆者:山田剛 2010年9月25日

中印国境のナトゥラ峠で握手を交わす両国の国境警備兵(2006年9月筆者撮影)

 
(その1から続く)
尖閣諸島沖で起きた海保の巡視船と中国「漁船」の衝突事件は驚くべき展開を見せている。すでにいろいろな意見が飛び交っているとは思うが、事の理非曲直は国際社会が冷静に見極めてくれると信じたい。そのためには日本政府も世界に向けて誠意ある情報発信をしなければならないのは言うまでもないだろう。
 
さて、前回の続き。インド政府による中国製通信機器の禁輸措置に直面した(正確に言えばこの措置が発動される前からの動きもあるが)華為技術(ファーウェイ)は4月、現地法人の会長にインド人を起用するなど「現地化」をアピール。中興通訊(ZTE)も同様の動きを見せた。このほか、現地発の報道でしか伝わっていないのだが、インドに進出する中国企業の間には、地元でヒンドゥー教の祭りに参加したり、環境や芸術関係のイベントを主催するなど、にわかにインドへの「歩み寄り」を示し始めた。非常に柔軟かつ機敏な行動といえそうだ。
さらに、中国外交部の姜瑜報道官は9月中旬、「個々のできごとで中印関係が影響を受けるのは望ましくない」と述べ、印中軍事交流におけるビザ問題などは手続き上の不手際だ、とする見解を示した。一方、ほぼ同時期に訪中していたカピル・シバル人的資源開発相(文部科学相に相当)は北京で「中国はわれわれの強力な隣国」と語り、インドの中等教育課程で中国語を導入する考えを明らかにした。
一連の紛争は最初から「出来レース」ではなかったかと思うほど、双方は歩調を合わせて迅速かつタイムリーな対応を見せたのだった。
今なお国境紛争がくすぶる印中関係は、ある意味で日中関係以上に微妙だと思うのだが、今回の両国の対応、とりわけ中国側の対応は実に真っ当かつエクセレントだった。「漁船」衝突事件で日本に対して見せた「ジャイアン」のような対応とはかけ離れた紳士ぶりだ。
アジアの大国同士ということで中国側がインドに一目置いているとすれば、中国から見た外交上の重みでは日本はまだまだインド以下ということかもしれない。インドに対してだけとはいえ、この「腰の低い」中国こそ、最も手ごわい交渉相手ではないかと思うが、インド相手にはそういう二枚腰の対応で臨んでくるのがやはり外交大国・中国なのだろう。
日本のごく一部には、中国のカウンターウエートとしてインドを利用しようという思惑もあるようだが、こうした印中の「阿吽の呼吸」を見ていると、インドと中国は我々が想像するよりもはるかに成熟した関係をすでに築いているように思えてきた。中国ファクターをダシに使ってインドに接近しようなどと言う浅薄な試みは、インドにとっては百もお見通しだろう。                           
                  (山田 剛)
 

 

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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