東北発の景気回復は本当か

磯山友幸
執筆者:磯山友幸 2012年4月23日
カテゴリ: 社会 経済・ビジネス
エリア: 日本
本格的な景気回復はこれからだ(建築制限がかかる仙台市若林区荒浜地区周辺)(c)時事
本格的な景気回復はこれからだ(建築制限がかかる仙台市若林区荒浜地区周辺)(c)時事

「予期することのできない特別の事情により、工期内に日本国内において急激なインフレーション又はデフレーションを生じ、請負代金額が著しく不適当となったときは(中略)請負代金額の変更を請求することができる」  宮城県は、県が発注する工事契約について3月から、工事請負契約書にあるこの「スライド条項」を適用し始めた。デフレが進んだから工事代金を下げる、という話ではない。「インフレ」だという認定をしたのである。宮城県のほか岩手県と福島県でも同様の措置が取られた。  日本経済は長い間デフレに苦しんでいる。日本全体でみればまだまだデフレからの脱却はできていない。ところが、東日本大震災で被災した3県では局所的に「急激なインフレ」になっている、というのだ。どういうことか。

東北で「入札不調」が続くワケ

 震災によって被災地の公共工事が急増した。例えば宮城県が発注した建設工事の一般競争入札件数(本庁分、地方機関分の合計)は2011年度で約1300件。2010年度の1063件に比べて22%も増加した。復興予算の本格的な執行で、この公共工事の増加はまだまだ続く見通しだ。
 ところが、昨年秋からその入札が不調に終わるケースが急増したのである。工事に携わる労働者の不足が顕著になると共に賃金が急上昇。県が示す予定価格では工事を請け負う会社がなくなってきたのだ。
 宮城県でいえば、去年9月以降、この傾向が顕著になり始めた。一般競争入札で誰も落札者がなく「不調」に終わった件数は8月までは数件(入札件数の10%未満)だったが、9月には30件を突破、入札の2割近くが「不調」になった。さらに発注件数が多かった11月には「不調」は50件を超えた。入札件数の3割以上だ。この傾向は続き2月まで入札の2割が「不調」という状態だった。
 これまで東北地方は公共工事が比較的少ない割に、働き手は多い傾向が強く、建設作業員の標準的な日当は全国に比べて大幅に低かった。ところが、被災地では瓦礫処理や建設工事などの急増によって作業員へのニーズが急増。人件費が高騰したのだ。東北地方では震災前は土木作業で日当1万円以下というケースが多かったという。ところが、最近は日当2万円というケースも出ているそうだ。
 県などの自治体が工事を発注する場合、人件費などの見積もり予定価格を決めるが、その予定価格が人件費の高騰に追い付かなかったわけだ。建設会社は事業費が割安な公共工事を敬遠、入札参加を見送る例が相次いだ、という。
 また、公共工事では現場に置くことが義務付けられている「主任技術者」が不足したことも、入札の不調が相次ぐ要因になった。それでも賃金の上昇は止まらないという。
 デフレに喘ぐ日本全体とは180度違う光景が東北に出現しているのだ。

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執筆者プロフィール
磯山友幸
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。
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