連載小説 Δ(デルタ)(10)

執筆者:杉山隆男 2017年6月24日
タグ: 尖閣諸島 中国
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

巡視船「うおつり」を制圧した「愛国義勇軍」。名簿上の乗組員は30人だが、確認できているのは27人。2人死亡しているので、1人の行方が分からない。船内の捜索に出かけた義勇軍の最年少兵士・張が、特警隊員の市川準一・2等保安士の隠れ場所にっ近づいてきた。

 

      10(承前)

 握り飯を口にくわえたままカラシニコフを構えた男は、銃のリアサイト越しに眼を細めて照準を定めながら少しずつ距離を縮めてくる。市川も、左手で道具箱の蓋を支えてわずかな隙間をつくりながら、右手はももに伸ばし、巻きつけてあるレッグポーチのホルスターからペティナイフを抜きとった。市川はナイフをいったん道具箱の底板におき、刃の部分を覆っているエッジガードを指先で押しながら、音を立てないように慎重にはずしていく。

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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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