ロシア・ウクライナ戦争の長期化がヨーロッパ諸国にもたらす秩序と正義のジレンマ 

執筆者:山本健 2022年7月16日
エリア: ヨーロッパ
NATO首脳会議でテレビ演説をするゼレンスキー大統領(C)EPA=時事
 
ロシアによるウクライナ侵攻は、勢力圏を否定したはずの冷戦後のヨーロッパの秩序の在り方を根底から揺さぶっている。「一つのヨーロッパ」としての共通の基盤が失われた中で、いかに正義を犠牲にせずに新たな秩序を築くのか。正義と秩序のジレンマを突き付けられている。

NATOを変質させた戦争 

 今から72年前、冷戦時代初期の1950年6月に、北朝鮮が突如として韓国へ軍事侵攻を開始した。朝鮮戦争の勃発である。それは、ソ連の独裁的指導者ヨシフ・スターリンが、武力による朝鮮半島の統一を目指していた金日成にゴーサインを与えたことで始まったものである。 

 朝鮮戦争は、地球の裏側のヨーロッパにも多大な影響を与えた。1949年に北大西洋条約機構(NATO)が創設されたとき、それはまだ机上の同盟であった。しかし、朝鮮戦争を機に大幅な軍拡が進められ、真の軍事同盟になっていった。ギリシャやトルコも新たにNATOに加盟し、冷戦の対立が、一挙に軍事化することとなった。 

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
山本健(やまもとたけし) 西南学院大学法学部教授。1973年生まれ。一橋大学大学院修士課程修了。ロンドン大学ロンドンスクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際関係史学部博士課程修了、Ph.D.(国際関係史)を取得。著書に『ヨーロッパ冷戦史』 (ちくま新書/2021年)、『同盟外交の力学——ヨーロッパ・デタントの国際政治史 1968-1973』(勁草書房/2010年)、共著に『歴史の中の国際政治』(有斐閣/2009年)、『戦後アジア・ヨーロッパ関係史』(慶応義塾大学出版界/2015年)などがある。
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