【前回まで】防衛費増額の財源を国債で賄うことは是か非か? 宮城教授の自主ゼミで、財務省主税局の土岐は学生たちに問いかけた。容認派、否定派、学生たちの答えはさまざまだった。
Episode3 リヴァイアサン
2 (承前)
「私、難しいことは分かりませんけど、国債ではなく、増税するべきだと思います」
ショートカットの、よく日に焼けた女子学生の佐橋[さはし]めぐが発言した。
「どうして、そう考えるの?」
「税金を払うのって、国にしかできないサービスを受けるためだと思うんです。自分の国が攻撃される時に、国に護ってもらうのも、サービスのひとつじゃないですか」
「じゃあ、トッキー。そろそろ財政のプロとしてのレクをよろしく」
宮城に話を振られて、土岐はホンネで語ることにした。
「まず、みんなの議論で残念だったのは、そもそも赤字国債って、法律で禁じられているという指摘が出なかったことです」
財政法第4条には「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」とある。
「しかし、特例公債法と呼ばれる特別の法律をわざわざ作って、赤字国債を発行してなんとか凌いでいるのが現状なんです」
事実、日本は1994年以降、毎年赤字国債を発行し続けている。
「国会議員も、メディアも、赤字国債発行は異常事態であるという認識が、年々薄れているのが、心配です。国債をいくら発行しても、日銀が買ってくれるんだから気にしないという発言がありました。でも、財政法第5条で、日銀が直接日本国債を購入することも禁止されています。日銀が国債を買って政府に直接お金を供給することができるようになれば、財政の節度が失われ、お金の発行に歯止めがかからなくなるからです」
今の日銀は国債を爆買いしているが、政府から直接買っているのではなく、あくまで市場から買い入れているから、財政法5条には反しないことになっている。しかし現実には、民間銀行が一旦買い入れた国債をワンタッチで日銀が買い占めていて、いまや日銀が全ての国債の約半分を持っているという異常事態が発生し、既に財政の節度は失われている。土岐に言わせれば、その行為は「財政法の潜脱」としか言いようがない。……
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