中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(31)

なぜ今年のサミットでは「中東」が避けられたのか

池内恵
執筆者:池内恵 2007年7月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

 ドイツ・ハイリゲンダムでのG8(主要先進八カ国)サミットが六月八日に終わった。興味深いのは、奇妙なまでに中東について触れられなかったという点だろう。中東の諸問題がグローバルな政治課題でなくなっているとは思えない。イラクやパレスチナでの紛争や、レバノンやイランをめぐる対立はいずれも緊迫化・深刻化している。 振り返れば、二〇〇一年の九・一一米同時多発テロ事件以来、昨年までは、G8サミットは中東や、イスラーム主義のテロリズムにまつわる課題で忙殺されてきた。二〇〇二年六月、カナダのカナナスキスでは、首脳声明で九・一一事件が言及され、テロ対策が主要な議題となった。 二〇〇三年六月のエビアンでは、イラク開戦をめぐって米国と議長国フランスをはじめとする西欧諸国との間に生じた亀裂と摩擦の修復が関心の的となった。テロ対策と大量破壊兵器不拡散が再確認されただけでなく、パレスチナでの紛争激化を受け、ブッシュ米大統領が二日目午後で中座して、エジプトのシャルム・エルシェイクでの和平会議に向かうという異例の事態となった。 二〇〇四年六月のシーアイランド・サミットは、議長国アメリカの主導による中東問題への解決案を披露する場となった。中東地域への「自由」の伝播が理念として掲げられ、民主化改革を基軸にすえた中東諸国・地域秩序の再編成が謳われた。アフガニスタン、アルジェリア、バハレーン、イラク、ヨルダン、イエメン、トルコの首脳も招かれ、パレスチナ問題に関しても「公正、包括的かつ永続的な解決」が掲げられて、米・国連・EU(欧州連合)・ロシアの「カルテット」の示した「ロードマップ」にもとづく交渉を活性化するよう要請する声明が出された。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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