投資信託より賢い「セルフESG投資」:自分に合った銘柄を「会社四季報」から探す方法

執筆者:瀧澤信 2023年11月14日
タグ: マネー
自分自身が幸せになる投資で「世のため、人のため」になる方法がある
急速に広がったESG投資だが、投資信託で運用するファンドの中身は誰もが知っている大企業ばかりなことが多く、環境配慮を装う「グリーン・ウォッシュ」も批判を集める。ESG投資は本来、「自分が解決したい社会課題」を念頭に個人で行うべきものだ。そこで、「なぜ」を5回繰り返し、「6つの視点」でふるいにかけてみてはどうだろうか。それによって『会社四季報』から自分にあった投資先が見つかると「複眼経済塾」取締役シニアESGアナリストの瀧澤信氏は提唱する。

 Global Sustainable Investment Review2020によると、世界のESG投資残高は2020年時点で約35兆3000億ドル(約5300兆円)に達した。これは主要先進国における運用資産残高の3分の1に相当する。

 ESG投資とは2006年に国連が提唱した投資に関する基本原則だ。持続可能な社会を実現するために、環境的な課題(Environment)、社会的な課題(Social)、経営的な課題(Governance)を、投資行動を通じて解決していこう、という新しい投資スタイルである。

 政府の力だけで社会課題を解決するのは難しい。だから投資によって課題解決を進めていこうというのが「ESG投資」だ。この考え方は世界中で共感を呼び、ブームとなった。しかし、急激に広がったため、ほころびも見え始めている。

ESGファンドの中身は「ブルーチップ」ばかりという実態

「個人向けESGファンド」は、一般の人向けの金融商品として開発された投資信託だ。これを買うことで、初心者でも手軽にESG投資を行える。投資信託では運用をプロに任せることができるため、金融知識や投資経験に自信がなくても投資が可能だ。

 投資信託の運営には、何人ものスタッフが関わっているため、人件費などのコストがかかっており、信託報酬の名目で運用資産から差し引かれている。

 大規模な投資信託の場合、資産規模が数兆円単位になることもある。実際にMSCIが2021年に公表したESGファンドの規模別ランキングでは、1位のParnassusのファンドが約3兆円規模、2位のiSharesESGファンドも2兆円弱と、大型のものが目立っている。

 投資信託が大規模になってくると、リスクコントロール上、「大企業の株」しか組み入れられなくなってくる。もちろんそうした大企業の中には本気でESGに取り組むところも多い。ただ、個人投資家がESG投資においてイメージしているのは、大企業ではなく、むしろ「中小型の成長企業が、力強く社会課題を解決していく」姿であったりもする。

 しかし、ハーバード大学ビジネス・スクールのマルコム・ベーカー教授らによる最新の研究によると、ESGファンドは平均して資産の68%を従来型ファンドと「全く同じ」銘柄に投資している。

 証券業界では誰でも知っている優良大企業を「ブルーチップ」と呼ぶ。現在販売されているESGファンドはわずかな例外を除き、そうした「ブルーチップ」に投資するファンドと内容が変わらない。私はこれをESGファンドにおける「ブルーチップの罠」と呼んでいる。

後を絶たない「グリーン・ウォッシュ」問題

 しかもESG投資が盛り上がると「少々プロセスを端折ってもバレない」と考える輩も出てくる。投資信託の情報開示は限定的なので、一般の投資家は投資対象の選択過程を詳しく知ることはできない。結果、ESGファンドは玉石混淆の状態に陥ってしまった。

 この状況の改善に動き出したのがEU(欧州連合)だ。EUは世界で最もESG動向に敏感な地域として知られており、ESG投資の規制を進めている。

 ちなみに日本でも金融庁は2023年3月末、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」を改正し、ESG投資の新しい規制を導入した。新ルールではESGのフリをしたファンドを「グリーン・ウォッシュ・ファンド」(緑で洗浄しているファンド)として取り締まる。

 これは一歩前進だが、あくまで「ESG評価のプロセスがしっかり行われているかどうか」を見るものに過ぎない。最終的なポートフォリオの内容が「ブルーチップ」ばかりになっていても、この基準では「問題なし」と判定されてしまう。

 ESGファンドの中身が、あまりESGではないという「グリーン・ウォッシュ」問題は、企業活動にもみられるようになっている。

 わかりやすい例としてホールディングカンパニーの利用があげられる。ホールディングカンパニーは、傘下のグループ企業の持ち株会社として上場している。実態はペーパーカンパニーのようなもので、ほとんどCO2は排出していない。そのため、傘下の企業や下請け企業が大量にCO2を排出していても、ホールディングカンパニーの数値を使い、「当社はCO2をほとんど排出していない」と公言できたのである。

 さすがにこのような誤魔化しはこの数年で規制されたが、こうした「グリーン・ウォッシュ」が後を絶たない。

「お上が決めた目標」より「じぶん目標」で投資

 上記のような問題もあって、私は「ESG投資は投資信託でやってはいけない」と感じている。……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
瀧澤信(たきざわしん) 公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー 1972年12月8日生まれ。成蹊大学経済学部経済学科卒業。1996年、明治生命保険相互会社(現・明治安田生命保険相互会社)入社。1997年、バングラデシュのグラミン銀行創設者、ムハマド・ユヌス氏の下で研修を受け、ESGの道を志す。2000年、株式会社グッドバンカー(日本初のESGファンド「日興エコファンド」の調査を担当するESG専門投資顧問会社)専務取締役COO就任。2002年、野村證券株式会社入社。2006年、株式会社サステイナブル・インベスター(富裕層向けESGプライベート・バンク)を起業、代表取締役社長就任(現任)。2016年、複眼経済塾株式会社・取締役シニアESGアナリスト兼事務局長就任。琉球大学・金融人材育成講座(2007)「環境と金融」講師。清泉女子大学講師。著書に、『『会社四季報』で発見 10倍稼ぐ!ESG株』(ビジネス社)。映画『うみやまあひだ』ではプロデューサーを務める(マドリッド国際映画祭2015外国語ドキュメンタリー部門・最優秀プロデューサー賞)。
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