「君主号」の世界史 (15)

ローマの解体

執筆者:岡本隆司 2018年10月13日
エリア: ヨーロッパ
従前の体制を転換し、新しい帝国の形を始めた3世紀のディオクレティアヌス帝。だがそれは、分立の萌芽でもあった

 

 ローマの「帝国」と漢の「天下」。さきに述べたとおり、紀元1世紀、「五賢帝」のトラヤヌスと後漢の和帝は、同時代人であった。期せずして同じ時代に併存したローマと漢は、東西あい類似する社会構成と秩序原理を有していたように思われる。

「天下」と「帝国」

 まず両者とも、基層社会に自治性の高いコミュニティ・聚落が存在した。地中海のそれは周知のとおり、ポリスないしキウィタスである。かつて独立していた「都市国家」だったものであって、これとまったく同じ「都市国家」概念で、中国古代の国家と社会を説明する向きさえあった。

カテゴリ: 政治 社会 カルチャー
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執筆者プロフィール
岡本隆司(おかもとたかし) 京都府立大学文学部教授。1965年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は近代アジア史。2000年に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会)で大平正芳記念賞、2005年に『属国と自主のあいだ 近代清韓関係と東アジアの命運』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞(政治・経済部門)、2017年に『中国の誕生 東アジアの近代外交と国家形成』で樫山純三賞・アジア太平洋賞特別賞をそれぞれ受賞。著書に『李鴻章 東アジアの近代』(岩波新書)、『近代中国史』(ちくま新書)、『中国の論理 歴史から解き明かす』(中公新書)、『叢書東アジアの近現代史 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ』(講談社)、『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)など多数。
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