【特別鼎談】中谷昇×山岡裕明×山田敏弘
転換期を迎える日本の「サイバー防衛」「サイバー捜査」に必要なこと(上)

執筆者:中谷昇
執筆者:山岡裕明
執筆者:山田敏弘
2023年3月7日
エリア: アジア
猛威を振るうランサムウェア攻撃にいかに対処すればよいのか(C) Andrey Popov/stock.adobe.com
世界中で最も被害を出していると言われるランサムウェア攻撃集団「LockBit」の脅威とは。そしてLockBitの解除に成功したと報じられた警察庁サイバー特捜隊の意義・役割とは。サイバーセキュリティのスペシャリスト3人が徹底議論。(後編はこちらからお読みいただけます)

 

 日本のサイバーセキュリティ体制は今、転換期を迎えている。

 昨年4月にはサイバー犯罪の対策強化に向けて警察庁にサイバー警察局とサイバー特別捜査隊が発足し、昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略では初めて「能動的サイバー防衛」が盛り込まれ、重大なサイバー攻撃を未然に排除し被害拡大を防止するために、「攻撃者のサーバー等への侵入・無害化ができるよう、政府に対し必要な権限が付与されるようにする」と明記された。

 現在、能動的サイバー防衛の法整備に向けた議論が行われており、今後はサイバーセキュリティの新しい司令塔組織も立ち上がる予定だが、そこにはどのような課題があるのか。警察庁出身でインターポールでのサイバー犯罪捜査の経験もある中谷昇・Z ホールディングス常務執行役員サイバーセキュリティに詳しい八雲法律事務所の山岡裕明弁護士国際ジャーナリストの山田敏弘氏が日本の「サイバー防衛」「サイバー捜査」について議論する。

ランサムウェアはゲームチェンジャー

山田 最初にサイバー攻撃の中でも最も脅威が増しているランサムウェア攻撃について話していきたいと思います。

 

山岡 私は、ランサムウェアはサイバー攻撃のゲームチェンジャーだったと思っています。リスクマネジメントの観点からは、リスクはその深刻度と発生確率とを乗じて判定されますが、企業にとってデータやシステムが暗号化されて事業継続が脅かされるランサムウェア攻撃の深刻度は、地震や津波、戦争クラスです。一方の発生確率は、人が金銭目的で実施し、しかも捕まらないとなると、地震や津波、戦争よりもはるかに高い。ランサムウェア攻撃は大企業・中小企業問わず最上位のリスクと言えます。実際に、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年公表している「情報セキュリティ10大脅威」組織編では、3年連続でランサムウェア被害がトップとなっています。

 ちなみに、昨年7月にランサムウェア攻撃集団の「 LockBit2.0」が「 LockBit3.0 」へ組織変更しましたが、LockBit3.0のリークサイトにわずか7カ月間で400社以上が掲載されています。ランサムウェア攻撃集団の一つである LockBit3.0 だけでもこの短期間で400社以上被害に遭っていることからすれば、如何に多くの企業がランサムウェア攻撃を受けるリスクに晒されているか分かるかと思います。

 

中谷 企業を狙った大規模なランサムウェア攻撃のはじまりは「WannaCry」ですが、2017年5月12日にWannaCryの大規模攻撃が始まった時、私はインターポールにおり、イギリス警察から「大変なことになった……

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
中谷昇(なかたにのぼる) Zホールディングス株式会社常務執行役員。1993年に警察庁入庁。警察庁情報技術犯罪対策課課長補佐等を経て、インターポールで経済ハイテク犯罪対策課長、ITシステム局長兼CISOを歴任。2012年INTERPOL Global Complex for Innovation初代総局長に就任、IGCIをサイバー犯罪対策の国際警察協力の拠点に発展させる指揮を執った。2019年3月警察庁退官、同年4月ヤフー株式会社執行役員就任、同年6月一般社団法人日本IT団体連盟常務理事、同年10月Zホールディングス株式会社執行役員、 2020年6月株式会社ラック社外取締役 、同年10月より現職。著作に『超入門 デジタルセキュリティ』(講談社)。
執筆者プロフィール
山岡裕明(やまおかひろあき) 八雲法律事務所 弁護士。University of California, Berkeley, School of Information修了(Master of Information and Cybersecurity⦅修士⦆)。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC) タスクフォース構成員(2019~2020年、2021~)、総務省・経産省・警察庁・ NISC「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス検討会」検討委員( 2022~)。
執筆者プロフィール
山田敏弘(やまだとしひろ) 国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『CIAスパイ養成官』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)。公式YouTube「山田敏弘 SPYチャンネル」 (https://www.youtube.com/channel/UCVITNlkbLneMV-C9FxzMmEA)も更新中
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top