Weekly北朝鮮『労働新聞』 (58)

相次ぐ対日「談話」、日朝交渉は再開の見込み暗く(2024年3月24日~3月30日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年4月1日
エリア: アジア
3月25日と26日、金与正朝鮮労働党中央委員会副部長が二日連続で日本に関する談話を発表した[金与正氏=2019年3月2日、ベトナム・ハノイ](C)AFP=時事
金与正朝鮮労働党中央委員会副部長に続き、崔善姫外相の名義で日本に関する談話が発表された。いずれの談話も日朝交渉の再開に否定的な文言が並ぶ。李龍男駐中大使による「立場発表」では、「北京の日本大使館ルート」でのやりとりも暴露された。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 北朝鮮から日本へのメッセージが相次ぐ異例の1週間となった。3月25日、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会副部長が2月15日以来2度目となる日本向けの談話を発表した。今回も日本に「政治的決断」を迫るものであり、「主権的権利」という言葉が3回も繰り返された。「主権的権利」は、昨年から偵察衛星打ち上げに伴って用いられるようになった用語であり、日本が防衛力強化を図るなか、北朝鮮が兵器開発を進めることも当然の権利であり、それに口出しするのは内政干渉だ、という立場を示すものである。

 金与正談話は翌26日にも発信され、「日本側とのいかなる接触も交渉も無視し、拒否するであろう。朝日首脳会談は、わが方にとって関心事ではない」と結ばれた。これだけでは、首脳会談の可能性を閉ざす宣言なのか、岸田政権に大きな譲歩を迫る駆け引きの一環なのか判断しづらいものであったが、日本に不満を募らせているのは確実である。1月には金正恩が能登半島地震に際して見舞い電を送り、2月には金与正が融和的な談話を出したにもかかわらず、日本側には何ら変化が見られないと判断していることになる。

 29日には崔善姫(チェ・ソニ)外相名義の談話も発表された。言うまでもなく、金与正の「個人的見解」とは異なり、公式的に外交をつかさどる人物の談話である。拉致問題を「解決することのない問題」「(北朝鮮が)解決してやることもないだけでなく、努力する義務もなく、また、そうする意思も全くない」として従来主張を繰り返した。「朝日対話はわれわれの関心事ではなく、われわれは日本のいかなる接触の試みに対しても許容しないであろう」という部分も金与正話談話と変わらない。対話を求めているのは日本側であって、そうであるならば譲歩すべきも日本側だとの論理である。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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