
「恩義がある。俺は総裁選では岸田をやるよ」
6月半ば、安倍派の中堅若手議員約10人が集まる勉強会が開かれた。専門家を招き、次期衆院選の選挙戦略について意見交換する場だったが、話題は自然と党総裁選に移った。その場で「岸田続投」とはっきりと態度を表したのは、裏金事件で引責辞任し、党から1年間の役職停止処分を受けた松野博一前官房長官だった。
松野氏は文部科学相を務め、党内で政策立案や調整力に定評があったものの、安倍晋三元首相とは距離があるとされ、派内では目立つ存在ではなかった。
転機が訪れたのは2021年の総裁選。派閥事務総長として、高市早苗氏(現経済安全保障担当相)を推す安倍氏を説得し、安倍派内の岸田票を取りまとめた。岸田文雄首相はその功績を評価し、政権の要である官房長官に起用。「でしゃばらない官房長官」として岸田首相の信頼を得た。派内では官房長官という役職を背景に安倍氏の死去後も5人衆に数えられた。
しかし、裏金事件では自身も1051万円の政治収支報告書への不記載が明るみに出た。記者会見や国会で批判の矢面に立たされ、事件の象徴的な存在となってしまった。通常国会閉会後は、地元選挙区での「おわび行脚」に奔走し、永田町の政局からは距離を置いているとされていた。
ただ、現状では松野氏が派内を取りまとめるほどの影響力を行使できるわけもなく、勉強会では「岸田支持」を明らかにした一方で、参加した議員らには「自分たちの選挙に有利になるように動け」と説き、同調を強いなかったとされる。
ある安倍派関係者は松野氏の発言について、「自身の再選すら危ぶまれるなかで、政局に力を割くだけの余裕はないのだろう」と分析する。
萩生田光一氏の誤算
苦しい状況にあるのは、他の5人衆も同様だ。

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