かつてモンゴル帝国(元朝)が世界的に膨張した際、その侵攻を正面から撥ね返した数少ない国に日本とベトナムがあげられる。現在も東シナ海、南シナ海で強圧的な海洋進出姿勢を示す中国に対し、日越が持つ「自然の同盟」関係の重要性は増す一方だ。
今年は戦後80年、同時にベトナム戦争終結から50年。この節目に際し、かつて仏印進駐の日本軍通訳を務めた96歳の元ベトナム人民軍将校が、「両国の若者に知ってほしい。ベトナム戦争へと続く独立戦争で、我々は元日本軍人らから直接特攻戦術を学んだ」と、驚愕の秘史を明かした。
初めて取材に口を開いた96歳のベトナム人男性
ベトナム戦争終結から50年を迎えた今年4月30日、かつては南ベトナムの首都としてサイゴンと呼ばれ、現在はベトナム最大の都市であるホーチミンで大規模な記念式典が開かれた。記者証を付与された筆者は観閲台に立ち大規模な軍のパレードなどに目を見張った。現地国営メディアは参加者1万3000人と報じたが、これはおそらく公式参加者に限っての数だろう。
前夜に同市に到着した際はパレード見物の場所取りをする市民が主要道路を埋め、空港タクシーも「これ以上ホテルに近づけない」と途中で筆者を放り出し、人込みをかきわけながらスーツケースを数百メートルひきずる羽目になった。ベトナム官民挙げての熱狂的な祝賀ムードは汗だくの我が骨身にしみた。
実はこの式典で会いたい人がいた。旧知の元ベトナム人民軍砲兵少佐、フィン・チュン・フォン(Huynh Trung Huong)氏(96)だ。しかし氏は高齢のため欠席し、退役軍人席にその姿はなかった。同時刻、南部カインホア省の省都ニャチャンの自宅でテレビが映す祝賀パレードの様子を食い入るように見つめていたという。
「もう書いてもかまわない」
式典後にフィン氏宅を訪ねた筆者に対し、氏は自身が証言する日越秘史を報じることを明るい表情で許可した。
「私は日本軍の通訳として明号作戦などに従事したが、日本降伏後は日本軍を離隊したベトナム残留元日本軍将校らによるベトミン(ベトナム独立同盟会)軍(ベトナム解放軍、のち衛国団、ベトナム人民軍の源流)への特攻戦術伝授の特別教室にも立ち会い、その講義を通訳した」
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