2017年、この両首脳はどう動くか(C)AFP=時事

 

 フォーサイト編集部です。新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 本年も昨年同様、新年を迎えるに当たり、執筆者の方々に「2017年の注目点、気になること」をお聞きし、それを【地域編】と【テーマ編】にまとめてみました。こちらは【地域編】です。お楽しみください(順不同。タイトルをクリックすると、それぞれの執筆者の記事一覧ページにジャンプします)。

 

【アメリカ・会田弘継】「オルタナ右翼」のトランプ新政権外交への影響

 1月20日にスタートするトランプ政権の外交政策はどうなるのか。世界中が注視している。12月半ばに訪れた北京の国家安全部直属シンクタンクのアメリカ専門家も、「選挙後に米国のシンクタンク20カ所ほどを聞き回ったが、見当もつかない」とこぼしていた。当のアメリカ人でさえも見当がついていないだろう。

 ひとまず次のように考えてみたらどうだろう。当たり前だが、選挙戦での発言と実際の外交はひとまず別と考えるべきだ。トランプ次期大統領の周辺とすでに決まった閣僚(級)人事から、いくつかの政策(思想)グループによる確執が進むことが予想される。まず、トランプはこれまで幾度かキッシンジャー氏と長い対話を行っており、また選挙戦初期から故ニクソンが創設した「Center for The Natinal Interest」の協力を得ていたことは知られている。ニクソン・キッシンジャー型のリアリスト外交思想の影響が推定される。ロシアとの和解を狙う姿勢に、ニクソンの対中和解のようなグランド・バーゲンを目指す姿勢が垣間見える。

 その一方で、ヘリテージ財団が途中から深くトランプ陣営に関与してきたことを考えると、まったく別の外交思想の影響も推定できる。ヘリテージはネオコン系とは違う。旧反共戦士らの牙城である。冷戦期の語彙を使えば、「封じ込め」派ではなく「巻き返し」派だ。ヘリテージの核となる外交思想はニクソン・キッシンジャー型とは相容れない。トランプ政権内でこの2つの外交思想の確執が起きる気配がある(「1つの中国」無視はヘリテージ系の影響と考えていいだろう)。

 さらに、ゴールドマン・サックスを中心としたウォールストリート系、あるいは国際エネルギー資本系(エクソンモービルのレックス・ティラーソンが国務長官の場合)などが閣僚の多くを占めるなら、経済利益重視の旧ロックフェラー・リパブリカン的な穏健(融和)外交思想もかなりの影響を及ぼすだろう。

 この辺りまでは、これまでの共和党政権でも見られた派閥抗争の形態だから、理解に難しいことはない。予測できないのは、選挙戦で功績が大きかったオルト・ライト(オルタナ右翼)がどのような外交を望むかだ。重鎮はホワイトハウスでトランプ側近として力を振るいそうなスティーブン・バノンである。白人労働者階級の支持を受け内政重視の彼らに、一見、理論化された外交思想があるとは思えない。

 ただ、オルタナ右翼へのリバタリアンの影響や、グループの根底を支えていると思われる過去の思想家のことを考慮すると見えてくるものもある。重要な思想家の1人はジェームズ・バーナム(1905~1987)である。彼の思想を考えるとニクソン・キッシンジャー型とは違うグランド・バーゲンも想定される。これについては改めて論じたい。

 

【ヨーロッパ:国末憲人】仏大統領選「右翼」は当選するか

 欧州で注目すべき動きとして、昨年私は、国民投票による英国の欧州連合(EU)離脱決定の可能性を挙げた。「まず起きないだろうが、起きたら大変」といった程度の問題意識だったが、それが実際に起きてしまった。もう、うっかりしたことは書けない。というより、うっかりしたことはとりあえず書いておいた方がいい時代である。

 その意味で、今年の欧州の焦点は、4月と5月に投開票があるフランス大統領選だろう。単一通貨ユーロからの離脱などを訴える右翼「国民戦線」のマリーヌ・ルペンがもし当選したら大変だ。英国の離脱騒ぎの比ではない。EUの要となってきた独仏の一角が崩れることで、欧州統合は重大な岐路を迎える。EU崩壊とまではいかないが、いくつかの制度は麻痺し、方針の大幅な変更も迫られる。

 米トランプ政権誕生と相まって、ポピュリズムが世界を席巻する例ともなるに違いない。人権や民主主義、良識といったキーワードが世界的に大きく後退することにもつながるだろう。

 ただ、繰り返しになるものの、これはあくまで仮定の話である。この予想が外れることを多くの人が望んでいるし、私もそれに異存はない。

 

【アフリカ:平野克己】懸念される累積債務の「不良債権化」

 アフリカ債務問題。ミレニアム時の「ジュビリー2000」で一旦は帳消しされたアフリカの累積債務は、その後の民間借入と国債発行ブームで再び膨らんだ。それらが不良債権化するだろう。

 私がアフリカ研究の世界に入った1980年代初頭、アフリカ諸国は次々に債務返済不能へと墜ち込んだ。債務リスケを施してもらう見返りに世界銀行とIMF(国際通貨基金)が課す構造調整計画を受け入れ、世界の開発政策思想は統制経済のそれから市場主義へと転換していった。

 あのときはたいへんな高金利だったが今は違う。また当時最大の貸し手は日本であったが、現在は中国だ。中国は大きく貸し込んだ分、比例的に債務救済のための追加援助を強いられるだろう。アフリカ諸国のマクロ経済バランスが決壊して回復不能になりつつある点は、35年前とまったく同じだ。こういう事態を招いた権力の愚かさにおいても。ウンザリするほどに。

 

【東南アジア:樋泉克夫】真価問われる安倍政権の「東南アジア外交」

 2017年も、北京による「熱帯への進軍」は止むことはないはずだ。アメリカのトランプ新政権が「失地回復」を目指して如何なる対応をみせようとも、である。2期8年に及んだオバマ政権によるタテマエ先行の硬直化した民主主義・人権主義原理外交(無為無策に近い)によって、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のアメリカに対する信頼感は薄れ、その間隙を北京が衝いた。であればこそ、この地域におけるアメリカの存在感の低下は自業自得でもあり、今後とも続くに違いない。

 世界の警察官の任に耐えられなくなったと口にするアメリカの立場を考慮するなら、東南アジアにおいてトランプ政権が北京との間で互いの勢力圏の再構築を目指す可能性も視野に入れておくべきだ。最悪シナリオは、双方の境界線がフィリピンより東の太平洋上に引かれること。そうなった場合、北京にとって大陸部東南アジアは裏庭と化し、南シナ海は内海となる可能性は高い。

 2017年の東南アジアは、北京の振る舞いを軸に以下の諸点に注目したい。

(1)ミャンマー:中国国境と接する一帯における少数民族との紛争、アウンサン・スーチー政権の経済政策、国軍の政治的復権の可能性。

(2)タイ:国内を南北に縦貫する高速鉄道建設と軍事協力(潜水艦・戦車購入、兵器修理工廠設立)。もちろん新国王治世で最初となる総選挙と民政移管後の政界動向。

(3)ラオス:中国とタイとを結ぶ鉄道建設工事の推移。

(4)カンボジア:中国資本の進出。

(5)マレーシア:親中姿勢を続けるナジブ政権の政権基盤の推移、鉄道建設(タイとシンガポールを結んで南北に縦貫する路線と東西に横断する路線)への中国の対応。

(6)シンガポール:台湾との関係の再調整。

(7)フィリピン:ドゥテルテ政権の親中パフォーマンスの本気度。

(8)インドネシア:高速鉄道建設契約を巡る事後処理。

(9)ヴェトナム:海上では対立しながらも、陸上では協調路線を進める対中政策の今後。

 以上に加えるなら、2016年秋にはインドネシア政府経済顧問就任を打診され、マレーシア政府からは同国のビジネス発展を目的に設立されたデジタル経済委員会顧問就任を求められた中国最大のインターネット通販サイト阿里巴巴を率いる馬雲(ジャック・マー)が、2016年11月にタイ最大の多国籍企業であるCP(正大)集団を率いる謝国民(タニン・チョウラワノン)との間で結んだタイにおけるネット通販に関する業務提携の今後である。

 両者による新たなビジネス・モデルが東南アジア全体に拡大された場合、あるいは“民間版の一帯一路”への試みと見做すこともできそうだ。

 ここで唐突だが、アメリカ初代大統領の「訣別の辞」の一節に思い到る。

「国家政策を実施するにあたってもっとも大切なことは、ある特定の国々に対して永久的な根深い反感をいだき、他の国々に対しては熱烈な愛着を感ずるようなことが、あってはならないということである。(中略)他国に対して、常習的に好悪の感情をいだく国は、多少なりとも、すでにその相手国の奴隷になっているのである。(中略)この好悪の感情は、好悪2つのうち、そのいずれもが自国の義務と利益を見失わせるにじゅうぶんである」

 それにしても遅々とした歩みを続ける中国の「熱帯への進軍」を目の前にした時、中国包囲網一辺倒ともいえる安倍外交は、あるいは路線転換を迫られることになるかもしれない。2017年、安倍政権の東南アジア外交は真価を問われることになるだろう。

 

【アメリカ:足立正彦】1年間は政策的混乱か

 何といっても1月20日に始動するトランプ次期政権。トランプ氏は公職経験が全くなく、大統領候補指名獲得争いでも本選挙キャンペーンでも共和党主流派と不協和音を抱えながらも、大統領の座を射止めた。だが、トランプ氏が起用した閣僚らは退役軍人やウォール街出身者に偏重しており、ホワイトハウスが司令塔として機能するのか不透明である。したがって、政権始動後半年間から1年間は試行錯誤により政策的にも混乱するのではないかと懸念している。

 

【インドネシア:川村晃一】ISテロとイスラーム保守派の動向

 2016年1月にはインドネシアの首都ジャカルタの中心部で白昼にテロ事件が発生し、衝撃が走った。その後も、小規模なテロ事件が各地で散発的に発生している。12月には大統領宮殿を狙った自爆テロ計画やクリスマスのテロ計画が、実行される直前に発覚した。いずれも「イスラーム国」(IS)に参加するインドネシア人テロリストが関与しているとみられ、これまではほぼ抑制されてきたIS関連のテロが東南アジア地域にも拡大するのか注目される。

 一方で、イスラーム保守派の動向も気になる。2017年2月に行われるジャカルタ州知事選に立候補している中国系キリスト教徒の現職がイスラーム教の聖典コーランを侮辱したと抗議する大規模なデモが、2016年11月と12月に発生した。これまではイスラームの名を借りた「ヤクザ集団」と見なされていたイスラーム保守派団体が、数万人から数十万人規模の参加者を動員し、平和的な大衆行動を組織したことは驚きであった。主流派の穏健的イスラーム教団体やイスラーム系政党のように、政治的主張を表明する公的な回路を持たないイスラーム保守派が、大衆動員によって自らの存在をアピールする手段を手に入れたのである。彼らは、テロを実行することが目的のイスラーム過激派とは同一ではないが、保守的イスラームの言説が今後も存在感を増していくのかは注目すべき点である。

 

【インド:緒方麻也】「モディノミクス」の具体的成果は?

 2016年11月で発足後2年半、つまり5年の任期の折り返し点を過ぎたインド・モディ政権にとって、2017年はその経済改革「モディノミクス」で目に見える結果が求められる年になりそうだ。昨年は、独立以来の税制改革といわれGDP(国内総生産)を1%前後押し上げると期待される「物品・サービス税(GST)」の導入を正式に決定、企業の破たん処理や債権回収を促進する「債務超過・破産法」の制定や、防衛産業などに外資100%を認めた海外直接投資(FDI)の規制緩和第3弾など、各分野で大きな前進を見せた。

 経済成長における最大のネックとなっていたインフラ部門でも、各地でメトロ(都市高速鉄道)の建設が進展、コスト過大となってストップしていた多くの幹線道路工事を相次ぎ再起動させることにも成功した。

 極めつけの、ブラックマネー撲滅を掲げた11月の「高額紙幣廃止措置」は、短期的とは言え消費財などの需要を抑制させる。これにより2016年度(17年3月期)のインドのGDPは1%前後下振れし、GST導入の効果をほぼ相殺してしまうことになりそうだ。しかし、市中に流通する紙幣の約90%を無効にするという荒療治だったことを考えれば、人心の反発は最小限で済んだと言える。新札が出回り、早期に混乱が収まれば税収が増えるだけでなく、キャッシュレス・デジタル経済への移行でPOSシステムやクレジットカードの普及拡大が見込まれる。

 こうした一連の中核的政策がようやく始動したとはいえ、2014年総選挙でモディ氏を首相に押し上げた若者や都市住民が期待するのは、もちろん所得増や雇用の確保、そして社会正義や治安の確立だ。次期総選挙が実施される2019年春までにどこまで「具体的な」成果を示すことができるか、残された時間はそれほど長くない。

 

【中国・野嶋剛】米中関係「緊迫化」するか

 中国にとっては、2017年でもっとも重要なのは5年に1度の党大会だ。自らを党の「核心」と位置付けた習近平国家主席への権力一極集中がどこまで進むのか。政治局常務委員らの新しい顔ぶれを見れば、習近平体制2期目の姿が明確になるだろう。

 一方、米国のトランプ新大統領の出現による米中関係の変数に頭を悩ますことになりそうだ。党大会を控えた習近平が弱腰な対応を見せる選択肢は少ない。安全保障や貿易問題をめぐって米中関係が緊迫すれば、台湾や香港が、米中が鋭く対立する争点として浮かび上がることもありそうだ。

 

【朝鮮半島:平井久志】大統領選挙の韓国、「区切りの年」の北朝鮮

 朝鮮半島の最大の焦点は、韓国の次期政権がどうなるかだ。朴槿恵(パク・クネ)大統領は「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」で弾劾訴追を受け、憲法裁判所がこれを認めるかどうか。12月の大統領選挙が早まる可能性が高い。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が保守の救世主になるのか、進歩勢力が10年ぶりに政権を奪還するのかは、韓国の内政だけでなく、北朝鮮にも影響を与える。

 北朝鮮にとって2017年は、金日成(キム・イルソン)主席誕生105年、金正日(キム・ジョンイル)総書記誕生75年、金正恩(キム・ジョンウン)政権発足5年という「区切りの年」で、「白頭山偉人称賛大会」を開催し、金正恩党委員長の体制強化を目指す。韓国で進歩政権が誕生すれば南北関係は変化する。北朝鮮はトランプ政権の対北朝鮮政策がどうなるか慎重に行方を見守っているが、米国が保守強硬路線に踏み出せば、再び核・ミサイル挑発路線に戻る可能性が高い。トランプ大統領の朝鮮半島サプライズ外交があるかどうか。

 

【ヨーロッパ:渡邊啓貴】「自由の理念」と「治安」のバランス

 世界情勢はなんといってもトランプ次期政権の外交のハンドリングに懸かっている。

 アメリカ第1主義と保守主義・孤立主義であるが、日韓・欧との同盟関係からの後退は、実際には実施したとしてもそれほど大きな変化はない。NATO・EU(北大西洋条約機構・欧州連合)とのきずながそう簡単に切り離されるとも考えにくい。トランプ氏とプーチンとの相性が良いという観測はあるが、米国がウクライナ・クリミア紛争を契機とした制裁軽減の方向に、そう安易に踏み出すことができるとも思えない。もしそうなった場合にはユーラシア全体でのロシア・中国のプレゼンスは増幅する。それは国際秩序全体へ大きな波及効果を持つ。筆者はその意味では、ロシアのクリミア半島軍事占領後、世界はすでに「ポスト『冷戦後』」の時代に入っていると思う。

 トランプ政権を論じる場合には、「ポピュリズムとは、主張する方も支持する方も、ご都合主義・機会主義を特徴とする」という視点が重要だ。トランプ外交は実際には、選挙公約の多くを棚上げにした形で進められるであろう。ただし、中東地域、とくにシリアに対する圧力を強める可能性は高い。この地域での軍事介入の可能性はないとは言えない。

 ヨーロッパは主要国の選挙の年である。3月のオランダ議会選挙、4-5月のフランス大統領選挙、9-10月のドイツ議会選挙で向こう4-5年のヨーロッパの態勢が決定する。BREXITはそれまで実質的には出発しない。

 しかし、イギリスのメイ首相は3月末にEU離脱の通告をEUに対してすると言っているので、3月末が1つの節目となって、BREXITの議論が具体性を帯びたものとなる。そして、イギリスの経済事情が厳しくなっていく可能性が高い。今のところポンド安も手伝って、国民投票結果のマイナスの影響が目立たないのが実情だが、いずれ困ってくるはずだ。そのときイギリス国民が決断を翻す可能性も出てくる。

 フランスでは大統領選に臨むルペンと国民戦線の勢力拡張が見込まれているが、案外伸びず、決選投票にも残れない可能性はある。それはひとえに左派が最終的にまとまるかどうかにかかっている。鍵となるのは極右の国民戦線ではなく、左派の求心力である。ドイツではメルケルを中心とする大連合政権となる可能性が高い。

 また、いずれにしてもヨーロッパでは難民とテロの問題に引き続き警戒が必要なことに変わりはない。ホームグロウンテロを物理的に防ぐことは容易ではない。社会全体の治安安定へのコンセンサスが不可欠である。人の移動の自由に代表される「世界市民」的発想はヨーロッパ統合の理念の根幹であるが、その自由の理念と治安とのバランスが問われているのである。そのきっかけをどこに求めるのかが、重大なポイントだ。

 

【中南米:遅野井茂雄】「左派」「ポピュリズム」の行方

 2016年、中南米では、前年のアルゼンチンに次いでブラジルで左派政権が交代し、ベネズエラの危機が深刻化するなど、世界の趨勢とは反対に、全体として脱ポピュリズムが鮮明になった。

 だが、経済は全体でマイナス1.1%(中南米カリブ経済委員会速報値)と、2年連続のマイナス経済で不況が続いている。2017年は不況が底を打ち、若干の回復が見込まれているが、そんな中、資源価格の急騰に沸いた経済ブーム(2003~2013)の下で台頭し、不況で再び苦境に直面している中間層がこの経済後退に耐えられるかが注目される。不満の増大から、ポピュリズムへの回帰が見られるかが焦点である。

 とくに、ブラジルの大統領弾劾裁判の背景にあったような大規模な腐敗の露呈が大きな政治的な意味を持つ可能性がある。12月21日、米国司法省は、ブラジル最大手の建設会社オデブレヒトが、国内の政治家などに約6億ドル、他の中南米諸国とポルトガル語圏のアンゴラの11カ国で、約4億ドルを賄賂として支払っていたことを公表、関係各国に衝撃と波紋が広がっている。うち1億ドルのベネズエラをはじめ、ブラジルの石油公社ペトロブラスが絡んだ大規模汚職事件の第2幕が他の中南米で開くことになった。

 次に、米トランプ新政権の対中南米政策しだいでは、左派勢力の回復を援ける可能性がある。NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しにより、米国への輸出が8割を超すメキシコ経済に悪影響を及ぼすことになれば、2018年の大統領選挙を前に、反グローバル化の立場からNAFTA見直しを訴えてきた左派のオブラドル候補と立場が共鳴し合い、隣国メキシコで左派政権の誕生という事態になりかねない。キューバに対しても、国交正常化交渉に反対してきた共和党政権の下で、より人権の改善に切り込んだ形でキューバとの交渉が行われることになろう。1981年、民主党のカーター政権から共和党レーガン政権に代わった途端、中米紛争が拡大し、新冷戦状況を創り出したことを考えれば予断を許さない状況だ。

 また左派ポピュリズム政権が倒れたり、危機に陥り、中南米外交の見直しを迫られている中国にとっては、トランプ新政権の下で左派への回帰が到来すれば、それは外交立て直しの好機となるだろう。

 

【南スーダン・白戸圭一】「民族浄化」で「破滅寸前」との報告

 2016年7月に南スーダンの首都ジュバで大統領派と第1副大統領派の大規模戦闘が再燃した時、日本政府が年内に導入を予定していた自衛隊の「駆け付け警護」の是非を巡る観点から、南スーダン情勢を巡る報道や国会論戦が一気に過熱した。

 当時の報道は、わずか3カ月前に両派が和平へ向けて暫定政権を発足させたばかりにもかかわらず、比較的安全とされていたジュバで戦闘が勃発したことへの驚きに溢れていた。

 しかし、筆者は戦闘が始まる3週間前の2016年6月中旬に、南スーダンで人道援助に従事している小さなNGOの関係者から「現場から上がってくる情報を聞いていると、戦闘が始まりそうな感じがする」という話を聞いていた。

 現場に張り付いているNGOスタッフたちは、情報コミュニティの専門家や政府高官といったエリート層から「報告書に書ける」情報を得ていたのではなかった。市井の、名もなき人々が口にした他者の悪口や噂話といった雑談の中から、異なる民族同士が激しく憎しみ合う方向へ社会が転がり落ちて行く危険な空気を感じ取っていたのである。

 こうした現場の空気は、政府機構や大企業のトップにはなかなか届かない。「街場のオジサン、オバサンと話していると、どうも変です」などという声が頂点まで上がる巨大組織があるとすれば、よほど優れたリーダーと中間管理職の集団の存在する組織だろう。現場が「肌で感じた危機感」は多くの場合、「情報の客観性を支える材料がない」として、どこかの中間管理職のレベルで止まる。ジュバの現場の空気が東京の本部にきちんと届いたのは、小さなNGOだったからだろう。

 国際社会という究極の「巨大組織」もまた、現場の空気を受け止めることができずに、取り返しのつかない失敗を繰り返してきた。現場が大虐殺発生の兆候を何度も国連本部に報告しながら、結局100万人近い犠牲者を出すことになった1994年の「ルワンダ大虐殺」は、そうした歴史的失敗の1つである。

 国連人権理事会の専門家チームが2016年12月1日、南スーダンにおいて「民族浄化が進行」しており、「破滅」の寸前にあるとの声明を発表した。

 地方の村々にまで足を伸ばし、10日間にわたって市井の人々と膝詰めで話をしてきた専門家チームの声明は、南スーダン情勢が重大な局面を迎えていることを伝えている。

「既に南スーダンの複数の地域で、飢餓や集団レイプ、村々の焼き討ちといった方法を用いた民族浄化が確実に進行している」「国内各地、どこを訪れても村人たちは、土地を取り返すためなら血を流す覚悟ができていると話していた」「多くの人々が、もう後戻りできないところまで来たと言っていた」

 2017年、現場のSOSを巨大な人道危機の抑止につなげることができるかが、またも問われることになるだろう。

 

【ドイツ・佐藤伸行】「反イスラム政党」が第3党へ躍進か

 2017年はドイツ総選挙の年。現時点の単純な計算では、ベルリンで起きたテロ事件にもかかわらず、メルケル首相の4選はまず堅いとみられていますが、問題は反移民・反イスラム政党「ドイツのための選択肢」(AfD)がどれほど勢力を伸ばすかでしょう。与党は、メルケル首相を「西側の価値観の支柱」と位置づけ、ポピュリズムの激流に抗する防波堤とする選挙戦略ですが、メルケル首相の指導力には陰りが出ており、AfDは議会第3党の座に躍り出そうな勢いです。

 一方、トランプ米政権誕生による米独関係の悪化、中国がドイツのハイテクに触手を伸ばしていることから生じている独中経済摩擦の行方も注視すべきテーマです。

 

【ロシア:名越健郎】「孤立脱却」目指すプーチン政権

 NATO(北大西洋条約機構)欧州連合軍副最高司令官を務めたリチャード・シレフ退役英陸軍大将が書いた近未来小説『2017年 ロシアとの戦争(2017 War with Russia)』が2016年、欧州でベストセラーとなった。戦争は事実上2014年のロシアによるクリミア併合で始まり、2017年にバルト3国に侵攻したロシア軍とNATO軍が遂に開戦に踏み切るという内容。フィクションながら、現実にも欧米とロシアの対立は先鋭化しており、「プーチンは武装し、極めて危険だ」(英紙タイムズ)などと対露警戒感が高まっている。

 小説では、NATOを指揮するのは「女性大統領」で、クリントン候補の当選を前提に描いているが、米露関係改善を掲げるトランプ氏の当選で状況は変わるかもしれない。プーチン政権は孤立からの脱却に向けて米露関係修復を最優先課題に据えるだろう。欧州主要国の選挙で、親露派政権が誕生すれば、展開はさらに変わりそうだ。ロシアは米新政権と欧州の選挙を注視し、アジア重視から欧米優先外交に切り替えよう。シリア、ウクライナの「2つの戦争」への対応も引き続き焦点になる。

 2018年3月の大統領選に向けて、ロシア内政も神経質な展開となりそうだ。指導部の世代交代の動きがみられ、経済危機下でプーチン大統領再選に向けて国粋主義的な路線を一段と強めそうだ。北方領土問題は動きそうもなく、安倍首相の対露新アプローチは空転しそうだ。

 

【アメリカ・武内宏樹】「グローバルな南部」の反乱は起こるか

 米国で「反国際主義」(anti-internationalism)が台頭している。昨年の大統領選で「反国際主義」を掲げたのはドナルド・トランプ氏だけではない。民主党予備選で「保護主義」(protectionism)を前面に掲げたバーニー・サンダース氏が予想以上の支持を集めた結果、本来「国際派」だったヒラリー・クリントン氏までもが反TPP (環太平洋パートナーシップ協定)の立場を取らざるを得なくなってしまった。トランプ氏を当選させたのはグローバリズムから取り残された人々の「怒り」だったといわれている。一方、大統領選後は、グローバリゼーションの恩恵を受けている人々の「怒り」が噴き出している。特に、製造業の国際分業に組み込まれて雇用が増えている米国南部では、トランプ政権が選挙公約に謳ったような保護主義政策を実行に移すようなことになれば、経済的不満は一気に高まることになるであろう。2017年は、NAFTA (北米自由貿易協定)物流の「扇の要」であるダラスを始め、ヒューストン、アトランタといった南部の大都市が主導して、歴史上初めて「プロ・グローバル」(国際主義に賛成)の反乱が起こるかもしれない。

 

【アメリカ・大西睦子】トランプ新政権「医療」「環境」政策に不安

 気になることは、トランプ政権の医療政策。特にオバマ政権が積極的に取り組んできたオバマケア、環境問題、女性の健康問題、LGBT(性的少数者)のサポート、銃規制、科学技術革新などの行方です。政治経験のないトランプ氏の政策は未知な点が多いものの、新閣僚の顔ぶれから、多くの米国人は今後の医療政策に不安を感じています。例えば、マイク・ペンス次期副大統領は、中絶反対、計画出産反対、反LGBTなどを推進しており、女性やLGBTの権利が攻撃される可能性があります。保健福祉長官はオバマケア強硬反対派のトム・プライス氏。米政府によると、2016年11月1日から12月19日までに、約640万人もの米国人がオバマケアの申請に殺到しています。環境保護局長官は、地球温暖化懐疑派で、同局を相手に訴訟を起こしたスコット・プルイット氏。国際的枠組みであるパリ協定への影響が懸念されています。また、トランプ氏は選挙キャンペーン中、移民排除、人種差別や女性蔑視などの暴言を繰り返してきました。南部貧困法律センター(SPLC)によると、11月8日の投票10日後までに、全米で867件の嫌がらせと脅迫が報告されています。嫌がらせをする多くの白人至上主義者は、トランプ氏の勝利を祝い、暴行の際にトランプ氏の名前を叫んでいます。多くの米国人が、心と体の健康に不安を抱きながら、新年を迎えます。


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