残るところ約1カ月。2024年1月13日に迫った台湾総統選挙は、同時に行われる立法委員(国会議員)選挙の候補者名簿も11月24日に出そろい、最終段階に入ろうとしている。
野党連立で選挙を有利に進めようと画策した国民党と民衆党の話し合いは破談に終わり、なかなか明らかにならなかった主要3党の総統・副総統のペアが顔をそろえた。
与党・民進党の頼清徳総統候補(64)には現職の駐米台北経済文化代表処代表(事実上の駐米大使)の蕭美琴氏(53)、国民党の侯友宜候補(66)にはメディアにも多く登場する趙少康氏(73)、民衆党の柯文哲候補(64)には新光財閥のプリンセス、呉欣盈氏(45)が副総統候補として届け出た。国民党を除いて副総統候補は女性となった。
また、鴻海科技・鴻海精密工業の創業者の郭台銘氏(73)は結局立候補しなかった。「勝てないレースには参加しない」とばかりに、最後まで闘うことを放棄した形だ。
副総統や立法院の比例代表の候補者発表で、大きく山が動き始めた感があるが、有権者やメディアにはどう受け止められたのか? 2人の専門家の分析も含め、概観した。
国民党が追い上げ開始、民衆党は失速
11月28日に聯合報が報じた世論調査では、民進党の頼清徳31%、国民党の侯友宜が29%、民衆党の柯文哲は21%、無回答20%だった。ここ数カ月、支持率は民進党リードが続いていたが、ここへきて国民党が追い上げ、明らかに支持率を後退させた民衆党との差が広がった形だ。これをどう読むべきか。
「与党を打倒するための国民党と民衆党の野党大連合に向けた駆け引きが、長々と続いた末に結局のところ結実しなかったことへの失望感により、主に第3勢力の民衆党の支持者の期待値が薄れ、元の支持層である国民党と民進党支持に流れたことが数字に表れたと読み取れる」と分析するのは、中国文化大学新聞学科の荘伯仲教授(53)。
また、以前にも筆者が話を聞いた同大学政治学科の鄭子真教授(49)は、「政党をひとつのチームと捉えて政策推進の質を比べてみると、現職アメリカ大使の蕭美琴を副総統候補に出してきた民進党が一段上に立っていると言える。民衆党はしょせん台北市政の延長線のようなもので、層の厚さには差が大きく、国会議員も経験が浅い人たちばかり」と評した。
「国民党は副総統候補の趙少康氏が73才というのを見ても分かるように、旧態依然で老化現象が目立つ。ただし、メディア界から副総統候補を引っ張り出した(筆者注:趙少康氏はテレビ・ラジオで政治討論番組のキャスターを務めている)のは、侯候補が朴訥で目立たない分、弁舌が巧みでメディアの対応に慣れた趙氏を加えて、互いを補強しようという作戦です。さらに趙候補は外省人(中国から国民党と共にやってきた外来政権側の人々)、侯候補は南部の嘉義出身のローカル台湾人というところも対照的で、互助関係になります。侯候補の実直な部分を南部の田舎の人に見せれば、南部での支持を高めるポテンシャルはある。2020年の総統候補(元高雄市長)の韓国瑜氏(66)の人気もいまだに枯れておらず、彼が選挙活動に加わって今後は『8年の腐敗政権を打倒する』というキャンペーンを展開すると思います」(鄭教授)
民衆党が選んだ「財閥のプリンセス」は吉と出るか
民衆党の副総統候補として呉欣盈氏の名前が突如現れたことは、筆者にとってちょっとした衝撃だった。というのは、3カ月ほど前に別件で呉氏に面会する機会があり、「次の選挙ではどういう形で参戦を?」と聞いたところ、あいまいな返事だったので、彼女は実務能力はあっても政治自体にはそれほど関心がないのかと思ったのだった。だが、すでにその時点で党からは「いざという時は、副総統候補だ」という打診はあったはずだ。11月末まで民衆党のオフィシャルな活動でもほとんど名前を目にしなかったので、変だなと思っていたら、最後の最後に切札として登場するとは。まさに政治マジックだった。
呉氏は父親が早稲田大学卒、母親は明治大学卒で、本人も日本語が話せる。アメリカでの生活も長く、配偶者はベルギー人。国際財務に強いという実務派の一面や育ちのよさを強調できるのかと思いきや、支持率が示す通り、メディアや一般国民は必ずしも高い好感度をもって迎えてくれないようだ。
鄭教授の評は以下のようなものだった。
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