「日本核武装論」という亡霊

執筆者:中村登志哉 2003年12月号
エリア: アジア

[メルボルン発]「日本――次の核兵器保有国か」。ブリスベンで先に開かれた豪州日本研究学会(JSAA)は、設立二十五周年記念大会ということもあって、豪州国内だけでなく日米欧、アジア各国から二百人以上が参加し、世界中の日本学者が一堂に会したような活況を呈した。中でも初日の国際問題セッションで、豪州の元駐韓大使で知日派のリチャード・ブロイノウスキー氏が刺激的なタイトルで発表した内容は、国際社会が日本に注ぐ視線を考える上で非常に興味深いものだった。 同氏の発表を手短に要約すれば、東アジアを北朝鮮の核危機が覆う現在、その脅威にさらされている日本と韓国が核武装に誘惑される可能性はかつてなく高いと強調。豪州は日本とは一九八二年、韓国とは七九年にそれぞれ二国間の原子力協定を結んで以降、ウランの主要輸出国となり、今では輸出先として上位二、三位を占めるまでに至ったという。日本については、岸信介ら戦後の政治指導者が核武装に関心を示してきたことは否定できない事実であり、仮に今核武装に関心を抱いたとしても驚くには当たらないとする。日本と韓国が核武装に踏み切った場合は、豪州産のウランが間違いなく核兵器に利用されることになることを肝に銘じ、豪州は東アジアで核拡散が起きる可能性があることを考慮した上で外交政策を再検討せよというのである。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
中村登志哉(なかむらとしや)
名古屋大学大学院情報学研究科教授、附属グローバルメディア研究センター長。1960年生まれ。メルボルン大学(豪州)政治学研究科博士課程修了、Ph.D.(政治学)。共同通信社外信部記者・ウィーン支局長、長崎県立大学教授を経て、2010年より名古屋大学教授。著書に『ドイツの安全保障政策―平和主義と武力行使』(一藝社)、編著に『戦後70年を越えて―ドイツの選択・日本の関与』(一藝社)、共著に『Power Transition an International Order in Asia: Issues and Challenges』(Routledge, 2013)『Strukturen globaler Akteure: Eine Analyse ausgewählter Staaten, Regionen und der EU』(Nomos Verlag, 2010)、訳書に『ドイツ・パワーの逆説』(ハンス・クンドナニ著、一藝社、2019)『ドイツ統一過程の研究』(ゲルトヨアヒム・グレースナー著、青木書店、1993)などがある。

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