国会版「事故調査委」への期待と懸念

執筆者:野々山英一 2011年12月19日
タグ: 日本
エリア: アジア

 東京電力福島原発事故の原因を調べる国会の「事故調査委員会」が12月8日、発足した。事故後、約9カ月たってからの発足は、あまりにも遅いが、それでもマスコミなどの注目度は高い。その理由は、現憲法下では初めて、民間人で委員会が構成されているからだ。国会は言うまでもなく、選挙で選ばれた議員で構成する。そこに民間人による委員会ができるのは「山に登って魚を釣る」ような話。国会議員の責任を放棄しているとも取られかねないが、あえて政治家が一歩退くことで中立性を担保しようという試みなのだ。

強い権限、独立組織

 一足先に発足した政府の「事故調査・検証委員会」(畑村洋太郎委員長)は、責任追及を目的としない方針を打ち出し、透明性も低いと指摘されており、国民の期待もしぼんできている。政府による身内の調査では真相は究明できないという国民の怒りが、国会内で独立した新しい委員会の設置を後押ししたともいえる。
 そのことを意識してか、委員長に選ばれた黒川清・元日本学術会議会長は辞令交付を受けた後「国民の、国民による、国民のための調査だ」と力説してみせた。
 調査委は法律に基づいて設置された。独自に事務局も持つ。証人喚問などの国政調査権も行使できる。それなりに権限と調査能力を与えられている。
 1979年、米国で起きたスリーマイル島原発事故の際、米国では議会がつくった調査委と、行政側の調査委が競い合うように真相究明を行なったという。
 今回も国会の調査委が成果を挙げれば、政府の調査委も競争意識を持って検証を進め相乗効果が生まれる期待もある。
 反面、懸念材料もある。委員会が政治に左右されず本当に「国民の声」を代弁したものになるのか、という疑問だ。
 民間人のみで構成する委員会の上には、「理事会」に相当する両院合同協議会がある。協議会は与野党の政治家で構成する。資料請求や証人喚問を行なう場合は、委員会の要請に基づいて合同協議会で決める。このため政治家の責任追及の根幹部分を政治家が差配する懸念は残る。

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