「波」編集部から送られてきた本書のゲラは、クリップ止めされたA4判の束だった。前書きや著者紹介もなく、いきなり本文から始まっている。誰が書いた何の本だったか、執筆をお受けした後にいろいろ別の仕事があった関係で、まったく覚えていない。ここまで先入観や予備知識がないままに本を読むのは、子ども時代以来ではなかったろうか。だが紙をめくるごとに集中力は高まり、文字通り一気に読了した。
そんな本書は、日本に80年ぶりに登場したという国産時計メーカーの、若き創業者のビジネス戦記である。主人公は、努力と天才と時間と感情を惜しみなくモノに向けている人間で、欲しがられるものとそうでないものの違いを見抜き、知られざる商品を見出し売れ筋に育て上げて生きてきた。30代後半にして人生何度目かの仕事上の裏切りに遭い、裸一貫に戻って自分自身で、オリジナルなアイディアと一貫した思想の下に時計づくりを始める。そして今回も胸のすくほどの、しかしちょっとほろ苦い成功を収める。
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