「公務員制度改革法案」の問題点

原英史
執筆者:原英史 2011年6月7日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

 

3日、「公務員制度改革法案」と「給与削減法案」が国会に提出された。
 
前者は、従来、労働基本権(協約締結権と争議権)が制約されていた一般公務員に、協約締結権を付与することが主眼。
後者は、震災対応のため、公務員の給与を時限的に(2013年度まで)、人事院勧告より5~10%深堀り削減する内容だ。
 
これらをセットで提出したのは、労働組合との関係で、
・当面の給与引き下げと引き換えに、
・長年の労組の悲願である協約締結権付与の法案成立を期す、
という取引をしたからだろう。
 
だが、提出後、西岡参議院議長は、給与削減法案について、「人事院の了解が得られない限り、(参議院では)議長として付託する考えはない」と発言。
すでに混乱の様相だ。
過去のエントリーでも指摘したが、公務員の給与は、人事院勧告を参考に、国会で判断して決めればよい。「人事院の了解が必要」などとは、法律のどこにも書いていない。
西岡議長の発言は暴走と言わざるを得ないと思う。
 
それはさておき、もっと大きな問題があるのが「公務員制度改革法案」だ。
以下では2点に絞って指摘したい。
 
(1)「公務員制度改革」の中心課題は何か?
 
今回の法案で、中核になっているのは、「労働基本権拡大」だ。
 
説明資料をみれば、それ以外に「幹部人事制度の改革」なども入っているが、これらは、昨年、鳩山内閣のときに提出された法案(審議未了で廃案)と基本的に同内容だ。
ちなみに、当時、鳩山内閣の閣僚らは、野党から「幹部人事制度の内容が全く不十分」といった指摘を受けて、「労働基本権が制約されている状況なので、これが限界」と答弁していた。
「労働基本権拡大」とセットなら、もっと抜本的な改革ができるような言いぶりだったが、結局、今回の法案をみれば、「労働基本権拡大」が加わっただけ。
抜本的な「幹部人事制度の改革」などは何も出てこなかった。
 
こうして、いつの間にか「公務員制度改革の課題は労働基本権」となったのだが、これでよいのか?
 
かつては、「公務員制度改革」の中心課題は、
・天下りの根絶、
・官邸を中心とした政治主導体制の確立(このため、「国家戦略局」、「内閣人事局」、「幹部人事制度の改革」)、
だった。
自公政権から鳩山政権にかけて、これら課題について、一時、取り組みの機運があったが、結局のところ中途半端なまま。中には逆行も見られる状況だ。
 
今となっては「政治主導」や「天下り」などどうでもいい、という人もいるかもしれない。
だが、筆者には、今回の震災対応で、これら改革を怠ってきた結果が露呈したように思われてならない。
・本当の「政治主導」を確立できず、政治家たちが官僚を使いこなせていなかったことが、官邸の機能不全をもたらしたのでないか。
 (例えば原発対応で、関係機関が混乱したまま、官邸では内閣参与を大量起用、といった状況が見られたことがその一例でないか。)
 
・「天下り」に象徴される、経済産業省(原子力安全・保安院)と電力会社の馴れ合い関係が、安全性を損ない今回の事態につながったのでないか。
 
こうした課題はいつの間にか消え去って、「労働基本権拡大が中心課題」というのには、違和感を覚える。
 
(2)強力な「内閣人事局」をなぜ作らないのか?
 
かつて、福田内閣の時、自民・民主・公明の3党合意で成立した「国家公務員制度改革基本法」では、まず最優先で「内閣人事局」を作るべきことを規定していた。
“強力な政府全体の人事部”を作り、官邸で人事を掌握することが、政治主導確立の出発点になるからだ。
 
今回の政府法案を見ると、いちおう「内閣人事局」の規定はある。
だが、これは、かつての「基本法」で規定していた「人事院や総務省の権限を移管した、強力な内閣人事局」とは全く異質のもの。何の権限もない組織になっている。
 
その代わり、「公務員庁」や「人事・公正委員会」を作るという。これは、
・現状の「人事院」、「総務省の一部(人事・恩給局、行政管理局)」を再編し、
・「公務員庁」「人事・公正委員会」「内閣人事局」という3つの組織を新設というのだから、
結局、官僚の幹部ポストを増やすためにやっているようにしか見えない。
 
細かい点だが、今回の「公務員庁」の権限をみると、不思議なことに、
・「行政情報システムの整備・管理」
・「独立行政法人・特殊法人の新設審査」
など、公務員制度と全く無関係の業務も入っている。
これは、総務省の行政管理局をそのまま移動して焼け太りさせようという発想で考えているから、こういうことが起きる。
 
麻生内閣で「内閣人事局」の法案を提出した際も、同じような案が浮上したことがあった。当時は、自民党の部会で「こんな焼け太りプランはダメだ」とストップがかかり、国会提出前に「行政情報システム」や「独立行政法人・特殊法人」の業務は削除された。
菅政権の閣僚たちは、こうした経過を知って、この法案を国会提出したのだろうか。
 
ともかく、国会で、ろくに審議せずに成立などということなく、適切な審議がなされることを期待したい。
 
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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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