行き先のない旅
行き先のない旅(92)

音楽祭に持ち込まれた「風力発電」への賛否

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2012年9月25日
エリア: ヨーロッパ

「グラインドボーン」という地名は、英国人にとって特別な響きがあるらしい。
 ロンドンの南80キロほどに位置する、緑に囲まれた小高い丘の上で、1934年からほぼ毎夏、オペラの音楽祭が行なわれている。音楽愛好家だった資産家ジョン・クリスティ氏が、チューダー様式の豪奢な大邸宅で音楽会を催し、そこに出演したソプラノ歌手に一目惚れし、結婚後、夫妻で力を合わせて世界一流のオペラハウスを築いたのが音楽祭の始まり。ちょうどナチスの台頭と時期が重なったことで、ドイツを逃れた一流音楽家が集まり、国際的な名声が確立された。
 ブラック・タイというドレスコードを約80年間守り抜き、休憩時間には見事に手入れされた庭園の中で、聴衆がそれぞれ持参してきた食べ物を広げ、ピクニックをする風習がある。ロングドレスの女性とタキシード姿の男性が外でシャンパンを抜き、草を食む羊や牛のそばに座って、ロンドンの喧噪を忘れてゆったりと過ごす。「真夏の世の夢」のようなロマンチックな風景の中で、良家の子女が引き合わされることも多いそうで、私の友人は「ここでプロポーズされるのが夢」とよく話している。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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