【ブックハンティング】「ネット時代の幕末藩士」を勇気づける思想書

執筆者:柴田尚樹 2006年4月号
カテゴリ: IT・メディア 書評

 ネット世界の全体像を俯瞰的に理解するのに最適な本はありますか、と聞かれることがしばしばある。これまではこの質問に適切な回答を出すことができず、評者の悩みの種でもあった。本書はその悩みをかき消してくれる一冊である。本書は、グーグルの成長、ブログの増大といった近年のネット世界の最先端で起こった劇的な変化を整理し、その変化に対応していくための心構えを記したものだ。ネット技術の解説書としてだけでなくビジネス書、思想書としての役割も担っている。グーグルやアマゾンといった革新的な企業が作り出した新しいビジネスが「経済圏」という共通概念を用いて記述されているだけでなく、変化の根底にある価値観や思想までが解説されており、ネット世界に精通しない人にとっても親しみやすい一冊である。 評者は一九八一年生まれの二十五歳。この春に大学院を卒業し、ネット企業に就職する。ライブドア事件が起こった日、携帯電話がいつも以上に騒がしかった。両親、親戚、メンター(先輩)が「お前の就職先は大丈夫か」と心配して電話をくれた。中には、いつでも他業界の会社を紹介するよ、と言ってくれる方もいた。自分のことを良く理解してくれているはずの身近な人にさえも、自分が進もうとする道は理解されていないのか、と思うと何だか悲しくなった。これが、本書でたびたび登場する「理解しあえない二つの世界」の典型例である。評者のようにほぼ全ての情報源をネット世界に依存し、ネット世界に住むような生活をしている人間と、そうでない人の間では大きな壁があるという事実を痛感した出来事であった。

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