ブックハンティング・クラシックス
ブックハンティング・クラシックス(26)

「源氏物語」と私――記念すべき千年紀を前に

執筆者:ドナルド・キーン 2007年4月号
カテゴリ: 文化・歴史 書評

『源氏物語 新潮日本古典集成(全8巻)』紫式部著/石田穣二・清水好子校注新潮社 1976年刊英語訳にはアーサー・ウェイリーのほかエドワード・サイデンステッカー、ロイヤル・タイラーのものがある。書名はいずれも“The Tale of Genji”。 初めて「源氏物語」の存在を知ったのは一九四〇年、十八歳の時だった。私は大学の三年生で、特に文学については自分が優れた教育を受けてきたという自信があった。すでに英文学とフランス文学を学び、ギリシャ・ローマの古典にも(少なくとも翻訳で)親しんでいた。同時に、ロシア文学の傑作の翻訳も非常に興味を持って読んでいた。しかし、東アジアの文学について知っていることと言えば、哲学者の孔子の名前と、俳句という非常に短い日本の詩があるということだけだった。孔子の教えの中身が何なのかさっぱりわからなかったが、井戸から水を汲もうとしたら朝顔の蔓が釣瓶に巻きついていて、それをそっとしておいてやりたくて隣家から水を分けてもらったという「朝顔につるべとられてもらひ水」という俳句は覚えていた。中国人や日本人が、果たしてこれまで小説というものを書いたことがあるのかどうか、そんなことは思ってみたこともなかった。

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