「マドフ事件」が金融界の凍りついた水面に広げる波紋

執筆者:小田博利 2009年2月号
エリア: 北米

全くの作り話にプロたちがまんまと騙された。金融界のいい加減さを証明した出来の悪い事件は、しかし、危機をさらに悪化させていく――。 不況風のなか、人々がクリスマスで憂さを晴らそうとしていた昨年十二月二十三日午前七時半ごろ。ニューヨーク・マディソン街のオフィスで作業員が初老の紳士の死体を見つけ、警察に通報した。遺体はルネ・ティエリ・マゴン・ド・ラ・ビルシェ氏、六十五歳。手首をカッターナイフで切り、遺体の近くには睡眠薬も見つかった。遺書はなかったが、ニューヨーク市警察は自殺と断定した。 ド・ラ・ビルシェ氏は投資ファンド、アクセス・インターナショナル・アドバイザーズの創業者。昨年十二月十一日に逮捕されたベルナード・マドフ容疑者が営んでいたねずみ講で、十五億ドルにのぼる損害を被った。名前から明らかなようにフランス系のビルシェ氏は、欧州に幅広い人脈を持つ。そうした富裕層や機関投資家の資金をマドフ・ファンドにつないだが、二進も三進もいかなくなった。自殺する前の週には、いくらかでも損失を埋めようと、金策に走り回っていたという。 米ナスダック・ストック・マーケット(現ナスダックOMX)グループのマドフ元会長が引き起こした詐欺事件。本人によれば「全くの作り話」による被害総額は、五百億ドルにのぼるという。事件は幾重にも波紋を広げている。なぜ、そんな詐欺話に名士たちが手もなく引っ掛かったか。様々な警告が出ていたのに、なぜ、米証券取引委員会(SEC)は詐欺を見抜けなかったのか。そして、カネはどこに消えたのか。

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