民主党代表選 「マニフェスト修正vs遵守」の図式は本当か?

原英史
執筆者:原英史 2010年9月3日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

「行政」とはちょっと外れるのかもしれませんが、民主党代表選の「政策」面に触れたいと思います。(「政局」面は守備範囲外ですが。)

 一般には、菅=「2009マニフェスト修正」、小沢=「2009マニフェスト遵守」と受け止められています。
しかし、両氏の公約を見比べると、実は、そうでもありません。
以下では、両氏が公式に発表した文書(菅直人「元気な日本の復活を目指して」、小沢一郎「『国民の生活が第一。』の政権政策」)に基づき、政策の対比をしてみます。
 
 来年度予算編成に向けての姿勢に関しては、たしかに、「修正vs遵守」でしょう。
○菅氏の公約: 2009マニフェスト実現に誠実に取り組むが、財源の制約などで実現困難な場合は、国民に率直に説明。消費税を含む税制の抜本改革について検討。
○小沢氏の公約: 国家予算207兆円の全面的組み替え。行政の無駄を徹底的に省き、マニフェスト実行の財源に充てる。子ども手当は23年度から2万円、24年度から2.6万円。農業戸別所得補償の拡充など。
 
 しかし、他の政策項目ではどうでしょうか。例えば、当面の緊急経済対策に関しては、
○菅氏の公約: 「一に雇用、二に雇用、三に雇用」
○小沢氏の公約: 緊急経済対策2兆円(住宅ローン円滑化、エコポイント延長など)。円高には市場介入を含むあらゆる方策。高速道路の建設による地方経済活性化。
 
 小沢氏が主張している「住宅ローン拡大」「エコポイント延長」などは、いずれも菅政権が打ち出そうとしている内容です。さらに言えば、両者とも、自民党政権時代の政策を延長しようということに過ぎず、両者の具体策に大きな差異は見えません。
 新味のある話としては、菅氏が「雇用が起点。雇用が増えれば経済が活性化」という新理論を主張したことですが、成長の見通しのないまま企業が雇用を増やすとも思えません。「増税で景気回復」に続く、呪術政策路線なのでしょうか。
 もう一つ興味深いのが、小沢氏が、「高速道路の建設による地方経済活性化」を唱えている点です。もはや記憶が薄れつつあるかもしれませんが、2009マニフェストの柱の一つは「コンクリートから人へ」。「マニフェストの誠実な実行」を唱える小沢氏は、この部分は失念してしまったのでしょうか。
 
また、「脱官僚、公務員改革」に関しては、討論での論戦を見ていると、小沢氏が「菅政権での政治主導の不徹底」を厳しく指弾している印象です。政治主導ができれば財源は出てくるという文脈ですが、公約の文面を見比べると、ここでも、ちょっと違う断面が見えてきます。
○菅氏の公約: 行政の無駄削減は最優先。人件費2割削減に向け、人事院勧告を越えた削減を目指す。国家戦略室は局への格上げを念頭に組織強化。
○小沢氏の公約: 天下りは全面的に禁止。地域主権の実現にあわせて国家公務員定数削減。官僚答弁の禁止など、国民主導の仕組みに。
 
 菅政権はこれまで、「国家戦略室の縮小」を宣言したり、「人事院勧告を尊重」(勧告より深掘りはしない)に傾きかけていましたが、今回の公約では、いずれも、2009マニフェストの路線に軌道修正しているようです。
一方で、小沢氏は、「政治主導」ないし「国民主導」を唱えているものの、実現の具体策は見えません。要するに「剛腕の自分なら政治主導ができる」ということなのでしょうか。また、公務員の給与削減には触れず、「地域主権の実現まで、国家公務員人件費削減を先送りする」というようにも読めます。
これらの点では、むしろ菅氏の方が2009マニフェストを尊重していると言ってよいでしょう。もっとも、「国家戦略室を縮小」と言ったかと思ったら直ぐまた「強化」、といった経過自体に、信念のなさが表れているとも言えますが・・
 
(原 英史)
 
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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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