中間選挙から見えてくるアメリカ政治の変化

執筆者:渡辺靖 2010年11月11日
カテゴリ: 国際 金融
エリア: 北米

 11月2日に行なわれた中間選挙については、拙稿が掲載されるまでに、すでに新聞等において多くの結果分析がなされていると思われるが、私にとって興味深かった点を幾つか素描したい。

前回の大統領選で分かった保守的潮流の強さ

敗戦の弁を述べるオバマ大統領 (c)AFP=時事
敗戦の弁を述べるオバマ大統領 (c)AFP=時事

 少し時計の針を戻して振り返ってみると、2008年の大統領選で私が実感したのは、アメリカ政治における保守的潮流の根強さであり、それは私たちが日本から想像するほど容易には「変革」しないという事実だった。  2006年の中間選挙で大敗した共和党にとって逆風が吹き続けるなか、大恐慌以来の金融危機が追い打ちをかけた。しかし、それでも共和党のマケイン候補は22州(選挙人173人)を手中に収めた。大恐慌後の1932年の選挙で共和党が6州(同59人)に激減したのとは実に対照的だ。得票率を比較すると、1932年の選挙で共和党は18ポイントもの大差で敗れたが、2008年にはわずか7ポイントの差だった。大統領就任後の各種世論調査をみても、自らを保守とみなす者の割合がリベラルとみなす者の割合よりも2倍近い状況に変わりはない。  こうした政治的文脈のなか、オバマ大統領は大型景気刺激策や国民健康保険法案を通したわけである。当然、保守派には、1980年の「レーガン保守革命」からすでに約30年間続く保守的潮流の大転換に挑んでいるように見受けられる。それゆえ、オバマ大統領に対する保守派の警戒心や恐怖心には、単なる個々の政策の是非を越えた、より根源的なものがある。  しかも、有権者の多くにとって切実な関心事である雇用情勢は低迷したままだ。必ずしも共和党への信頼を取り戻したわけではないが、オバマ政権や民主党には一度お灸を据えてやらねば、という声が沸き上がっても何ら不思議ではない。  とりわけ、話題を呼んだティーパーティへの参加者の多くは、苦労して大学を卒業し、何とかミドルクラスの暮らしを手に入れたものの、先行きの見えない状況に不安を感じている白人を中心とする中年や中高年である。政府が大きくなると増税されるのではないか。その分の恩恵を自分たちは享受しているか。そもそも政府が何から何まで面倒を見るというのは非アメリカ的ではないか。こうした不満や怒りは「アメリカを政府から取り戻せ」という使命感とおのずと共鳴しやすくなる。今回の選挙戦について共和党のマコーネル上院院内総務は「アメリカはフランスになることを拒むということだ」と述べていたが、建国の理念に遡ってまでオバマ政権の施策に反発するさまは、まさに「理念の共和国」ならではという思いを強くする。  考えてみれば「レーガン保守革命」までは半世紀もの長きに亘ってフランクリン・ルーズベルト大統領の「ニューディール」政策、ケネディ大統領の「ニューフロンティア」政策、ジョンソン大統領の「偉大な社会」政策などに象徴される、民主党中心のリベラリズム――政府による介入を「自由」への障壁ではなく、必要不可欠な「手段」とみなす発想――の時代が続いたわけである。それに比べれば、今日まで保守主義の時代が30年続いていることは決して長過ぎるわけではない。

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執筆者プロフィール
渡辺靖 1967年生まれ。1990年上智大学外国語学部卒業後、1992年ハーバード大学大学院修了、1997年Ph.D.(社会人類学)取得。ケンブリッジ大学、オクスフォード大学、ハーバード大学客員研究員を経て、2006年より現職。専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。2005年日本学士院学術奨励賞受賞。著書に『アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と〈文化の政治学〉』(サントリー学芸賞)、『アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所』、『アメリカン・センター アメリカの国際文化戦略』などがある。今年10月に岩波新書から最新刊『アメリカン・デモクラシーの逆説』が刊行された。
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