インテリジェンス・ナウ
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ハンセン事件で表面化する米ロ・スパイ戦争の激化

春名幹男
執筆者:春名幹男 2001年3月号
カテゴリ: 国際
エリア: ロシア 北米

「開けるな。開封しないままビクトル・チェルカシンに渡せ」 一九八五年十月四日、米バージニア州アレクサンドリア。駐米ソ連国家保安委員会(KGB)政務担当官ビクトル・デグタイアル氏の自宅に送られた郵便の内側の封筒の表面には、そう書かれていた。チェルカシン氏とは、当時の駐米KGB防諜担当責任者のことである。 これが、米連邦捜査局(FBI)前幹部ロバート・ハンセン容疑者(五五)が「B」という仮名でKGB側に、自分から情報提供を持ちかけた最初の手紙だ。KGBワシントン支局の内情を熟知するハンセンらしいアプローチの仕方だった。 KGBに情報を提供する見返りに十万ドルを支払うように求めた。そして、“挨拶代わりの”重要情報として、バレリー・マルトイノフ、セルゲイ・モトリン、ボリス・ユージンの三人の米国駐在KGB要員が「最近米側にリクルートされた」と知らせた。 いったん米中央情報局(CIA)に寝返った後、再びソ連に保護を求めた元KGB幹部ビタリー・ユルチェンコ氏に同行して、マルトイノフ氏は翌月帰国。そのまま逮捕、処刑された。続いてモトリン氏も処刑、ユージン氏は懲役十五年を宣告された後、九二年恩赦で釈放され、米国に移住した。

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執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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