五輪直前「ブラジルの混乱」(下)「左派政権」「保護主義」を超えて

遅野井茂雄
執筆者:遅野井茂雄 2016年7月16日
エリア: 中南米

 今回の石油公社をめぐる汚職疑惑は、日本円で1兆円を超す大規模なものだが、ブラジルの多党分裂的な政党システムとも関係する。左派の労働党政権も保守系の民主運動党と連立を組む必要があった。副大統領や議長のポストが保守の民主運動党に割り当てられたのもその例である。また法案を通すためにも、ポストや利益の誘導によって多数派を形成して凌いできたという面がある。そこには不正な資金の流れが付きまとった。ルセフ氏の前任のルラ大統領(2003~10)が2006年に再選された際も、汚職問題が浮上して苦戦を強いられた。
 汚職の追及には、30年間にわたる民主化の進展という要素が背後にある。検察、裁判所の独立性が強くなり、市民社会の意識も高くなり、透明性や説明責任を強く求め始めている。とくにブラジルはルラ政権下での好景気で、政府の社会福祉政策が奏功して、貧困が改善し、中間層が厚くなった。
 その結果、税金の使われ方や、公共サービスへの要求が強まっているのは、サッカーW杯の際、全土で起きた大規模な抗議デモからも明らかだ。その時も要求は、世界一流の豪華な競技場よりは、学校や病院に力を入れるべき、というものだった。
 そこに経済不況の到来である。経済の落ち込みの結果、汚職が露見することはよくあることだ。インフラ事業などで、石油公社や大手ゼネコンから政治家に資金が流れたということで、市民の怒りが爆発した。経済悪化を前にした政治家を巻き込む大規模な汚職疑惑で、政治不信の高まりはあまりに大きい。

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執筆者プロフィール
遅野井茂雄
遅野井茂雄 筑波大学大学院教授、人文社会系長。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(編著)。
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