中国に接近する「ドゥテルテ比大統領」外交感覚の背景

執筆者:竹田いさみ 2016年9月29日
エリア: アジア
9月7日、ラオスのビエンチャンで、握手する中国の李克強首相(左端)とフィリピンのドゥテルテ大統領(中央)(C)AFP=時事

 麻薬犯罪容疑者に対する容赦のない超法規的殺人を認めているフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71歳)をめぐっては、6月30日に大統領に就任して以来暗殺の噂が絶えない。

大統領暗殺の可能性

 アンダナール大統領補佐官(広報担当大臣)は2016年9月20日、大統領府が置かれているマラカニアン宮殿で記者会見を行い、フィリピン系米国人の一味によるドゥテルテ大統領を追放する企てが発覚したと述べた。暗殺を企てるグループとして浮上してくるのは、①麻薬密売組織②イスラム過激派③失脚した治安関係者④米国の特務機関など、いずれもドゥテルテ大統領が目の敵にしてきた相手であり、誰が大統領を暗殺しても不思議ではない構図が出来上がっている。この麻薬犯罪容疑者約3000人の超法規的措置のほかに、ミンダナオ島ではイスラム過激派への掃討作戦を展開し、麻薬密売に関与したとして警察幹部を名指し失職させた。米国オバマ大統領や国連事務総長がフィリピンには重大な人権問題があると批判すれば、オバマ大統領へ暴言を吐き、国連を脱退すると口走る有様だ。
 世論調査機関のパルスアジアが7月に行った調査では、実に91パーセントの国民がドゥテルテ大統領を支持するなど、全国的に圧倒的な支持率を誇る大統領だが、既得権益層や人権団体からは煙たがられる存在であることも事実だ。米英欧の海外メディアからは、連日のように人権問題で批判されるため、大統領は海外メディアが嫌いなことでも知られる。米国誌『タイム』(9月26日号)は、カバーストーリーに「夜の帳(とばり)がフィリピンに降りるとき」と題して、「麻薬戦争に立ち向かうドゥテルテ大統領の悲劇的な代償」を特集している。一方、人権問題で窮地に立たされているドゥテルテ大統領に、こっそりと歩み寄ったのが中国であった。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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