「フィデル・カストロ死去」の衝撃と波紋

遅野井茂雄
執筆者:遅野井茂雄 2016年12月7日
11月27日、キューバの首都ハバナで、市街地に掲げられた故フィデル・カストロ前国家評議会議長の写真と、翻る半旗 (C)AFP=時事

 半世紀にわたり、キューバの革命体制を指揮してきたフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去した。11月25日、90歳であった。

 フィデル前議長は、1959年1月革命政権を樹立して以来、フロリダ海峡を挟んで目と鼻の先の超大国アメリカによる侵攻や経済封鎖に抗し、その圧倒的な指導力とカリスマ性をもって共産党一党独裁体制を堅持。ソ連崩壊後は、最大の後ろ盾とその援助を失う試練を乗り越え、「悪の枢軸」と非難するブッシュ政権の制裁圧力にも耐えた。21世紀にはベネズエラの支援で苦境を凌ぎ、グローバル化の進展する中で中国方式やベトナム方式の市場経済化をも拒み、カリブの社会主義の弧塁を守り抜いてきた。

「皆が平等で貧しい国」

 フィデル氏は、大衆を惹きつけるカリスマ性や雄弁さという点で中南米の傑出した政治指導者に共通する資質を持つとともに、いかなる独裁者(統領caudillo)と比べても比類ない特徴を示してきた。多元主義を拒否し、徹底して反対者を抹殺する完璧なまでの支配機構を築く類い希な能力を発揮し、数万人の亡命者を含め多大な人的物的な犠牲を強いてきた。
 スペイン植民地に根差す中南米に特有の構造的格差を無くし、無償の教育や保健を国民に遍く行き渡らせる奇跡を実現しながらも、個人の自由を制限し、皆が平等で貧しい国を創り上げた。だが、旧共産圏にあったような目に見えた特権的階級を創り出さず、蓄財や腐敗とも無縁で清新なイメージを貫き通した点も長期支配につながった。まさに、革命とともに生き、革命体制の中で生を全うした革命家であった。
 
 革命初期にはキューバ革命に共鳴したもののその後袂を分かち、カストロ体制の圧政を最も舌鋒鋭く批判し続けてきたペルーのノーベル賞作家バルガス・ジョサは、フィデル死去の報に接し、スペインのエル・パイス紙に「フィデル・カストロは歴史に収まることはないだろう」とコメントし、その遺産が将来も決して評価されることはないと断罪しているが、その功罪についての評価は、革命体制の今後の存続とも関わる課題である。 

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執筆者プロフィール
遅野井茂雄 筑波大学大学院教授、人文社会系長。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(編著)。
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