15年ぶり「減産合意」の行方と「新ピークオイル論」:2017年原油価格

岩瀬昇
OPEC・非OPECの協調減産合意を発表するロシアのノヴァク・エネルギー相、アルサダOPEC議長(カタール・エネルギー工業相)、サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相(左から) (c)EPA=時事

 2016年12月10日、15年ぶりにOPEC(石油輸出国機構)と非OPEC産油国が協調減産で合意した。2017年1月から6カ月間、OPECが120万BD(Barrel per Day、日量バレル)、非OPECが55万8000BD、合計180万BD弱の減産をするという合意である。7月以降は市場動向を見て、5月末の次回OPEC総会で決めることになっている。
 市場はこの動きを好感し、NYMEX(New York Mercantile Exchange)に上場されているWTI(West Texas Intermediate)原油の期近ものの価格は約17%値上がりした。
 OPEC総会前日の11月29日の終値は、バレルあたり45.23ドルだったが、12月10日にロシアを始めとする非OPEC産油国11カ国が協調減産に合意すると、週明けの12月12日には52.83ドルにまで上昇したのだ。

 

 その後、市場の関心は、はたして減産合意は遵守されるのか、また、米国のシェールオイルの増産は始まるのだろうか、という点に移っている。
 2017年の原油価格は、中期的な「資本支出減少のツケ」と、長期的な「新ピークオイル論」を意識しつつ、時に投機筋の思惑に翻弄されながらも、徐々に上昇基調に推移していくことになろう。
 筆者として連続3年目になる「フォーサイト」における年初の原油価格動向に関する本稿を、ナイミ前サウジアラビア(以下、サウジ)石油相の自叙伝出版を機に開催された「座談会」におけるトピックスから始めたい。

「何の戦略もなかった」

 OPEC総会直後の12月2日、米シンクタンク・戦略問題国際研究所の主催で座談会が開催された。席上ナイミ前石油相は、2年前にOPECが採用した「お気に召すまま生産政策」には「何の戦略もなかった」と語った。会場は静まり返った。
 ナイミによれば、事前にロシア、メキシコ、ベネズエラと対応策を打ち合せたが何の進展もなかった。総会で声高に減産を要求するアルジェリアもベネズエラもイランも「総論賛成、各論反対」だった。つまり「価格下落を阻止するために生産削減が必要だ。だが自分の国は減産できない」と。
 サウジだけが削減する用意があった。だが、原油価格が34~36ドルだった1981年当時、1000万BD近く生産していたのだが、「スイング・プロデユーサー」役を引き受けたため1985年半ばには300万BDにまで生産削減し、シェア奪回を目指し「バイバック販売」を採用した結果、1986年には価格も10ドル以下に落ち込ませてしまった「逆オイルショック」の過ちを繰り返さないために、単独での減産は拒否した。
 こうして各国が好きなだけ生産する政策を採ることになった。ナイミが「我々は深く考えていなかったが、結果的にシェールの減産などが起こり、我々の政策はそれなりの評価を受けることとなった」と発言すると、会場中がざわめいた。

減産合意は遵守されるか

 これまでの経験から「減産合意は遵守されない」とみる向きが多い。非OPECとの協調会議の前に行われた前述の座談会の席上、ナイミ前石油相は「ロシアの行動」に懐疑的だった。2009年に約束を守らなかったからだ。「(発言者を特定しない)チャタムハウスルールが適用されるよね」と冗談めかして言いながら「誰もがズルをするものだ」とも語った。
 今回の合意内容を詳細にみると、「穴」だらけだ。
「減産免除」となったナイジェリアもリビアも、国内の治安状況が改善すれば、それぞれ数十万BDの増産余力がある。ロシアは「段階的に」30万BDの減産を行うとしており、2017年1月から減産するとは約束していない。そもそも非OPECの減産は「自発的に、あるいは管理された減少により行う」となっている。
 だが一方でサウジのファーリハ・エネルギー相は「必要なら約束した48.6万BD以上の減産をする用意がある」と発言している。

 

 

 2017年1月から180万BDの減産が完全に実行される可能性はけっして高くないだろう。だが、サウジの意思が強いことから、少なくとも数十万BD以上の減産は行われるのではないだろうか。
 来年の需給バランスについてIEA(国際エネルギー機関)は、添付グラフのように楽観的だ。合意のとおり減産されれば、2017年前半に60万BDの供給不足になり、在庫解消が始まる、とみている。一方OPECは慎重で、2017年後半までリバランス(需要と供給が均衡へ向かうこと)は実現しない、とみている。
 減産合意の完全遵守については疑問だが、リバランスが進んでいくのは間違いないだろう。リバランスが加速されるのか、あるいはゆっくりとしか進まないのか、ということでなかろうか。

シェールオイルの増産は?

 OPEC減産決議の直後の12月2日、先物市場に大きな変化が現れた。添付グラフ(3)のように、期近ものから受渡しが将来のものの価格を結んだ先物曲線が、2~3カ月先から2年間ほど、55ドル近辺でほぼフラットになってしまったのだ。12月10日のOPECとの協調減産合意後にはさらにこの傾向が強まり、2~3カ月先から上場期間の最後までほぼ55ドル前後でフラットになってしまっている。

 

 

 原油の先物曲線は、目先の価格が高すぎるときは「バクワデーション」と呼ばれる先安になり、逆に安すぎるときは「コンタンゴ」と呼ばれる先高になる。
 たとえば100ドル以上の高値が続いていた2010年代前半は「バクワデーション」だった。だが、大幅下落のきっかけとなった2014年11月末のOPEC総会以降は「コンタンゴ」で今日まで推移してきている。
 ところが協調減産合意のニュースが流れると、期近ものの価格は大きく上昇したが、受渡しが将来の先物はほとんど上がらず、結果的に55ドル水準でフラットになってしまったのだ。
 WTI取引量は、世界全体の原油生産量の約10倍の10億バレル程度だったが、原油の削減方針を協議したアルジェ会議が開催された9月28日に新記録となる16億バレル超えを実現し、減産を合意したウィーン会議が開催された11月30日には25億バレル弱という、驚異的な取引量を記録した。
 一方、将来の取引量を保証する「流動性」の指標でもある未決済取引残高(Open Interest)は、しばらく18億バレルレベルだったのだが、いまや20億バレルを超えている。
 このように活況を呈しているNYMEXで先物曲線がフラットになっているということは、しばらくは55ドル以上には急伸しない、と市場参加者が判断しているということではなかろうか。
 55ドルとはおそらく、DUC(Drilled but Uncompleted、掘削済み未仕上げ)坑井やスィートスポットと呼ばれる良質の地質構造から生産して、利益が出る価格水準だろう。減産傾向に歯止めをかけ、生産は増え始めるだろうが、大幅な増産に移行しうる水準ではなさそうだ。
 前述したナイミ前石油相を囲む座談会に同席していたシュルンベルジェ(世界最大の石油開発技術サービス会社)前会長のアンドルー・グールドや米中堅石油会社CEO(最高経営責任者)のジョン・ヘスは、「過去のシェールオイルの急激な増産は100ドル時代に起こった」「数カ月後の生産動向を示唆するリグ(石油坑井掘削用機材)稼働数が増加すると、これまで負担を強いられてきた資機材やサービスを提供するコントラクターと呼ばれる下請け業者たちが値上げを要求してくる」「減産合意が守られるか懐疑的なので金融筋も容易にはファイナンスをつけない」「経営者も確信が持てない」などの事情を勘案すると、シェール業者が本格的に増産するには60ドル以上が必要ではないか、と発言していた。

価格形成に影響を与える「新ピークオイル論」

 産油国および大手国際石油会社は、目先の需給動向に加え、中長期的課題を抱えている。
 中期的には、数年後に供給不足が発生するリスクがあることだ。
 現在でも「在来型」といわれる通常の石油開発からの原油が需要の90%以上を満たしている。これは今後も変りそうにない。シェールオイルは投資決断から生産開始までの期間が半年から1年程度と短いが、「在来型」では数年から10年程度必要だ。したがって「在来型」石油開発において2015年から3年間も続く資本支出減少が、数年後に供給不足をもたらすリスクがあると、IEAもOPECも警告している。
 さらに長期的課題がある。「新ピークオイル論」だ。
 かつての「ピークオイル論」は、地球上の石油資源は有限だからいつか枯渇する、価格は時間の経過とともに高くなる、という供給サイドの問題として捉えられていた。だが「新ピークオイル論」は、石油が枯渇する前に需要がピークを迎えるというものだ。「パリ協定」の発効は、気候変動対応のため強力な脱化石燃料政策適用の可能性を高めた。自動車の燃費向上にも見られるようなエネルギーの効率使用技術の革新とあいまって、供給より先に需要がピークを迎えるという「新ピークオイル論」が真剣に受け止められるようになっている。
 問題は、いつ需要がピークを迎えるのか、ということだ。
 エクソンやBPは、毎年発行している長期予測の中で、2035~2040年ごろまでは需要は伸び続けるとしている。ところが2016年11月、シェルの財務担当責任者が「5年から15年の間に需要はピークを迎えるかもしれない」と発言し、大きな波紋をもたらした。
 このような中期的な供給不足のリスクと、長期的な需要ピーク論を考慮しながら、産油国や大手国際石油会社は投資決断、経営判断をしていかなければならない。
 おそらく2017年は慎重に対応し、再度の価格下落を避けつつ、シェールオイルの大増産を刺激しないように、WTIが50~60ドルで推移するような方策を取るのではないだろうか。過剰在庫解消を含めたリバランスが完全に視野に入ってきたら、シェールオイルの増産が可能になる60~70ドル水準を模索するものと思われる。
 2016年10月、イスタンブールで開かれた世界エネルギー会議の場で、BPのボブ・ダドレーCEOは「向こう10年間、55ドルから70ドルで安定するだろう」と語っている。当面の原油価格は、投機によるオーバーシュート(行きすぎた変動)があるのが相場の常だが、基調としてこの価格レンジで推移するのではなかろうか。
 

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執筆者プロフィール
岩瀬昇 1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?  エネルギー情報学入門』 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (文春新書) がある。「岩瀬昇のエネルギーブログ」も好評。
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