【ブックハンティング】「バブル期」から今日まで続く日本の課題

執筆者:中西寛 2017年1月24日
タグ: アメリカ 日本
エリア: アジア
『バブル 日本迷走の原点』永野健二著/新潮社

 昭和末期に日本が経験したバブル時代からほぼ30年が経ち、改めてその時代への関心が高まっている。特に昨年相次いで刊行された國重惇史『住友銀行秘史』(講談社)と、日本経済新聞記者として当時を深く取材した著者による本書はバブル期の生々しい実態を伝える貴重な証言である。
 本書はバブルの歴史を胎動、膨張、狂乱、清算の4期に分けて、それぞれの時代に活動ないし暗躍した人物に焦点を当てることで、その時代の側面を映し出す手法になっている。そこで披露されるエピソードは経済記者であった著者の真骨頂であり、渾身の筆致で描かれる知られざる裏話は臨場感にあふれている。たとえばこの時代を象徴する人物の1人、大阪の謎めいた相場師・尾上縫に日本興業銀行が貸し込んだことは周知だが、尾上の破産管財人となった弁護士の滝井繁雄が訴訟で興銀などの貸付の不当性を示し、一定額を回収して弁済に充てた話(後に滝井は最高裁判事としてグレーゾーン金利規制判決を行った)は、問題の本質が尾上ではなく当時の金融機関の無軌道ぶりにあったことを印象づける。

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執筆者プロフィール
中西寛(なかにしひろし) 京都大学公共政策大学院教授。1962年生れ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。米シカゴ大学歴史学部博士課程留学などを経て、2002年から京都大学大学院教授。著書に『国際政治とは何か』(中公新書、読売・吉野作造賞受賞)、編著に『歴史の桎梏を越えて 20世紀日中関係への新視点』(千倉書房)、『新・国際政治経済の基礎知識 新版』(有斐閣)、『高坂正堯と戦後日本』(中央公論新社)などがある。
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