風が時間を (15)

まことの弱法師(15)

執筆者:徳岡孝夫 2017年6月25日
タグ: ドイツ
エリア: 北米

 ニューヨークはマンハッタンが、木造船の基地だった頃の話である。ダイヤモンド・ジムの渾名で呼ばれる鉄道成金がいた。

 ジムはネクタイ・ピン、カフス・ボタン、ワイシャツやジャケットのボタン、そのすべてをダイヤモンドにした。彼はキラキラ輝きながらニューヨークの大道を闊歩した。

 道を行く人は立ち止まって眺めた。スリの心得ある者はわざとぶつかり、ダイヤを引きちぎって逃げた。

 警察は「犯罪を奨励するのと同じだ、止めてくれ」と頼んだがジムは意に介さなかった。カネなら、なんぼでも入ってきたからである。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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