【Analysis】異常気象とロシアにより、主要輸出国の小麦備蓄は十数年ぶりの低水準に

黒海の供給リスクはウクライナのみならずロシアの輸出にも及ぶと専門家は指摘[ロシアが占領したウクライナ・ドネツク州ニコルスケの小麦収穫風景=2023年7月19日](C)REUTERS/Alexander Ermochenko
異常気象は例を見ないほど広範に拡がり、南北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアの農場では食糧生産の脆弱性が高まっている。ウクライナ情勢も食糧安全保障の懸念を再び浮上させた。

[シカゴ発/ロイター]ロイターの分析によると、小麦の主要輸出国の備蓄量は、異常乾燥により十数年ぶりの低水準に落ち込む見通しだ。一方では最大のサプライヤーであるロシアとウクライナの戦闘が激化しており、輸入国の側にはますます不安が広がっている。

 小麦の主要輸出7カ国・地域の在庫と収穫量に関する米国の推定では、2023~24年の備蓄量は16年ぶりの水準まで減少する。ロシア、米国、EU(欧州連合)を除いた他の輸出国のシェアは少なくとも1960年以降で最低となり、これはオーストラリア、カナダ、アルゼンチンといった国々の供給が逼迫していることを反映している。

 ロシアは、乾期を乗り越えたシベリア地方などでの大量収穫により出荷増が予想される。ただし、ロシアがウクライナ産穀物の安全な輸出を認めた穀物輸出合意(黒海イニシアティヴ)から7月17日に離脱したことで、見通しは不透明感を増している。離脱後にロシアが行った黒海沿岸のウクライナの港湾施設や石油ターミナルへの空爆では、9日間で推定18万トンの穀物が失われた。

 シカゴの穀物調査会社アグリソースのダン・バッシー社長は「供給のクッション役が見当たらない。黒海でロシアからの輸出に問題が起きれば、小麦市場はすぐさま荒れる」と分析する。実際、7月19日の小麦価格急騰は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後の数日以来、1日の上げ幅としては最大を記録した。ロシアでの大量収穫への期待もあり、アジア、中東、アフリカの一部のバイヤーはこの数カ月、足元の需要分のみの購入に止めている。手持ちの備蓄が限られた小麦輸入業者は、価格と供給の衝撃に対して脆弱だ。

 国際穀物理事会(IGC)のシニアエコノミスト、アレグザンダー・カラヴァイツェフ氏によれば、黒海の供給リスクはもはやウクライナのみならず、ロシアの輸出にも及ぶという。ロシア・ウクライナ両国を合わせた輸出量6000万トン、世界貿易の3分の1が脅威にさらされている。「アルゼンチンの作付けが当初の予想を下回り、ヨーロッパの一部では作柄が懸念されているうえ、米国とカナダという他の2つの主要輸出国で異常気象の問題が生じている。供給状況に改善の要素は見出しにくい」(カラバイツェフ氏)。

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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