日本企業の変化に「突然気づかれた」
高井「日本株のここまでの急上昇はアベノミクス相場、あるいは郵政相場以来だ。何が起きているのか」
藤野「海外投資家に突然、日本企業や日本株の魅力に気づかれた、ということだと思う。ウォーレン・バフェット氏の商社株への注目がひとつのシグナルになり、徐々に起こってきた変化に目が向いた。海外勢には日本企業は『眠たい』『退屈』という先入観があった。実際に多くの海外投資家が久々に来日して話を聞いてみて、変化に驚いたのだろう」
藤野「私自身、 2000年頃に多くの日本の大企業の経営者と話す機会があったが、スリーピーだと感じた。勲章、健康、ゴルフのスコアの話しかしないような経営者が多かった。どうやって自分の会社が社会に貢献するのか、どうやって株式市場の評価を高めるか、熱意を持って語る人はほぼいなかった。成長性・将来性を見出いだせず、時価総額上位100社以外に投資する戦略を『ひふみ投信』の基本にした。それが最近、変わった。2022年の年末ぐらいに複数の日本の大企業の経営者と会う機会があり、大きな変化を感じた」
高井「バフェット氏の商社株投資は2020年ごろに明らかになっていた。あの時には他の外国人はそんなに動かなかった。今回動いたのは、やはり人の移動が再開してフェース・トゥ・フェースで情報がリアルで伝わったのが大きいのか」
藤野「それはけっこうある。日本の株価上昇のキーワードのひとつは『レス・ネガティブ』、つまり他の地域に比べて相対的に悪くないことだ。米国の金融政策はまだ方向性が明確ではなく、欧州は利上げが続く。中国の景気は悪い。日本株に退避するニーズがあった。そこにバフェット氏の動きがあり、久しぶりに日本に行って、京都観光も日本食も楽しみたい、と大勢の海外勢が日本に来た。実際に来たら、あの眠たい日本企業はだいぶ変わっていた。いくつかの大企業で社長交代の若返りもあった」
ガバナンス改革の漢方薬
藤野「もう一つ、地味だけど真面目にやってきたことがあった。あまりにも地味で変化がないからニュースにはならないが、起点は『伊藤レポート』 だ。アベノミクスの初期から、持続可能な成長、コーポレートカバナンスの改善、資本効率の向上の改革が始まった。結構、真面目にそれに取り組んだ人たちがいて、それでだんだんと企業のレベルが変わっていったのだが、地味だから株価に反映されなかった。それが、海外勢が同じ目線で話ができる、日本は変わったと感じた。それまで日本株は利益対比や資産価値対比でずっと割安だった。安かろう、悪かろう、と思われていた」
藤野「米中貿易戦争という要素も日本に注目が集まりやすい、日本株にお金が流れ込みやすい要素になっている。貿易戦争がハイテク分野に広がり、日本は中国依存、韓国依存を脱却する受け皿になっている。冷戦が終わってから中国がグローバル市場に参加して日本の相対的優位が落ちたのが『失われた30年』の一因だったが、逆回転が働いている」
「日経平均10万円時代」は来るのか
高井「ここまで来ると、気になるのは日経平均株価が1989年末につけたバブル高値3万8915円に届く強気相場になるのかどうかだ」
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