高井宏章のおカネの教室チャンネルより (1)

「日経平均10万円時代」のシナリオとは ひふみ投信の藤野英人さんに「高井さん」が聞く!

執筆者:高井宏章 2023年8月30日
タグ: マネー
アベノミクス相場以来の急上昇をみせた日本株。レオス・キャピタルワークスの藤野英人氏は、「漢方薬」のようなガバナンス(企業統治)改革によって「スリーピー」だった日本企業の意識が変わり、その魅力が海外投資家に再評価された結果だと読み解く。日本も世界の後を追ってインフレ時代に入ったと見る藤野氏は「日経平均10万円時代」の到来を予想。デフレからインフレへの転換、米中対立、AI(人工知能)の発展などで、経営者や投資家、ビジネスパーソンも発想の転換を迫られるダイナミックな経済への移行を見据える。 *YouTubeチャンネル「高井宏章のおカネの教室」のライブをもとに、主な発言を抜粋・編集してあります。(聞き手、文・構成 高井宏章)

 

日本企業の変化に「突然気づかれた」

高井「日本株のここまでの急上昇はアベノミクス相場、あるいは郵政相場以来だ。何が起きているのか」

藤野「海外投資家に突然、日本企業や日本株の魅力に気づかれた、ということだと思う。ウォーレン・バフェット氏の商社株への注目がひとつのシグナルになり、徐々に起こってきた変化に目が向いた。海外勢には日本企業は『眠たい』『退屈』という先入観があった。実際に多くの海外投資家が久々に来日して話を聞いてみて、変化に驚いたのだろう」

藤野「私自身、 2000年頃に多くの日本の大企業の経営者と話す機会があったが、スリーピーだと感じた。勲章、健康、ゴルフのスコアの話しかしないような経営者が多かった。どうやって自分の会社が社会に貢献するのか、どうやって株式市場の評価を高めるか、熱意を持って語る人はほぼいなかった。成長性・将来性を見出いだせず、時価総額上位100社以外に投資する戦略を『ひふみ投信』の基本にした。それが最近、変わった。2022年の年末ぐらいに複数の日本の大企業の経営者と会う機会があり、大きな変化を感じた」

高井「バフェット氏の商社株投資は2020年ごろに明らかになっていた。あの時には他の外国人はそんなに動かなかった。今回動いたのは、やはり人の移動が再開してフェース・トゥ・フェースで情報がリアルで伝わったのが大きいのか」

藤野「それはけっこうある。日本の株価上昇のキーワードのひとつは『レス・ネガティブ』、つまり他の地域に比べて相対的に悪くないことだ。米国の金融政策はまだ方向性が明確ではなく、欧州は利上げが続く。中国の景気は悪い。日本株に退避するニーズがあった。そこにバフェット氏の動きがあり、久しぶりに日本に行って、京都観光も日本食も楽しみたい、と大勢の海外勢が日本に来た。実際に来たら、あの眠たい日本企業はだいぶ変わっていた。いくつかの大企業で社長交代の若返りもあった」

ガバナンス改革の漢方薬

藤野「もう一つ、地味だけど真面目にやってきたことがあった。あまりにも地味で変化がないからニュースにはならないが、起点は『伊藤レポート』 だ。アベノミクスの初期から、持続可能な成長、コーポレートカバナンスの改善、資本効率の向上の改革が始まった。結構、真面目にそれに取り組んだ人たちがいて、それでだんだんと企業のレベルが変わっていったのだが、地味だから株価に反映されなかった。それが、海外勢が同じ目線で話ができる、日本は変わったと感じた。それまで日本株は利益対比や資産価値対比でずっと割安だった。安かろう、悪かろう、と思われていた」

藤野「米中貿易戦争という要素も日本に注目が集まりやすい、日本株にお金が流れ込みやすい要素になっている。貿易戦争がハイテク分野に広がり、日本は中国依存、韓国依存を脱却する受け皿になっている。冷戦が終わってから中国がグローバル市場に参加して日本の相対的優位が落ちたのが『失われた30年』の一因だったが、逆回転が働いている」

「日経平均10万円時代」は来るのか

高井「ここまで来ると、気になるのは日経平均株価が1989年末につけたバブル高値3万8915円に届く強気相場になるのかどうかだ」

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
高井宏章(たかいひろあき) 経済コラムニスト・YouTuber 元日経新聞編集委員(2023年6月に日経を退職)。日経在籍時にはマネーのまなびチャンネルで「教えて高井さん」を担当。「日経ニュースプラス9」のキャスターも務めた。2016〜18年ロンドンに駐在。2018年に「高井浩章」名義で出版した「おカネの教室」は10万部超のロングセラーとなっている。Twitter、noteで経済にとどまらず、書評や教育論など幅広い情報を発信。1972年生まれ、愛知県出身。三姉妹のお父さん。趣味はLEGOとビリヤード。
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