やっぱり残るは食欲 (14)

寛容なるうどん諸君

執筆者:阿川佐和子 2023年10月7日
カテゴリ: カルチャー
エリア: アジア
「炒めうどん」? 「焼うどん」?(写真はイメージです)

 前回、素麺もとい「天女の白髪」で冷やし中華を作ってみたところの感想を書きそびれた。

 一言で言えば、「アリなんじゃない?」と、若者言葉を使ってニヤリとしたくなる味だった。たしかに中華麺で作る冷やし中華とは趣が違う。食感も違う。でも、悪くない。

 肯定的な思いを抱く要因の一つに、付随する材料がいずれもほぼ同じメンバーだったことが考えられる。キュウリ、ハム、トマト、玉子(錦糸玉子を焼くのが面倒だったので、やや甘味のスクランブルエッグという体であったが)、あとは冷蔵庫の在庫具合によって、長ねぎを加えたり大葉やみょうがや香菜などの薬味野菜を足したりする程度だ。

 前回も書いたが、素麺と冷やし中華の本質的な違いはなんだと考察するに、それはタレの味であろう。出汁に醤油とみりんを入れて作る素麺ダレ(プラス私はゆず酢も加えるが)と異なり、冷やし中華のタレは甘い。この甘味が、はたして素麺と仲良くなれるか。そこがポイントだと思っていた。が、順応性の高い素直な素麺君は、そのハードルも難なくクリアしてくれたのである。

 「これはイケるね!」

 こうして我が家の今夏のメニューにセミレギュラーメンバーとして、素麺冷やし中華が加わった。

 「お昼、なににする?」

 我が家の相方に問いかけながら、私はもはや素麺の束を手にしている。さて今日は何味でいくか。いちばん得意とする和風スタイルもよし、冷やし中華風もよし。さらに道は大きく開かれて、スパゲッティ用に作り置いたニンニクたっぷりのトマトソースをかけて食べてもよし。

 先日は、炒めた鶏の挽肉と玉ねぎの千切り、さらに大葉、みょうがなどを細かく切って、ナンプラー、レモン汁、ミントの葉、ニンニク、生姜、粉唐辛子、少々の砂糖を混ぜ合わせたドレッシングをかけて食すタイ風サラダの一つ、ラープを作ってみたらこれが美味なこと。夕食としてご飯に乗せて食べたのち、余ったので冷蔵庫で保管し、翌日の昼に素麺にかけて食べたらまたこれも美味なり。コップンカーのご機嫌気分になりました。あまりにも気に入って、さらに翌日は鯛の刺身で同様のサラダを作り、これも素麺に乗せて満足した。

 あちこちで、ラープがおいしいと喧伝しているつもりが、いつからか「ワープがおいしい」と言っていたらしく、なかなか理解してもらえず、「ほら、だからね」とスマホで検索してみたら、「ワープ」という料理名は出てこなかった。当然か。でもラープとワープは似ていると思う。気分を一気に東南アジアへ飛ばしてくれるのだ。ラープはワープする!

 そんなこんなで素麺に夢中な日々を送るうち、ふと視界に乾燥うどんが入ってきた――

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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』(新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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