やっぱり残るは食欲 (15)

おかずフルーツ

執筆者:阿川佐和子 2023年10月22日
カテゴリ: カルチャー
エリア: アジア
甘味と塩味のハーモニーがたまらない(写真はイメージです)

 今年の夏は桃のいただきものが多かった。嬉しいかぎりである。が、桃はデリケートな果物だ。ちょっと放っておくとすぐに熟(う)れてしまう。朝起きて桃をむき、晩ご飯のとき他のおかずと共に桃を並べる。それでも食べ切れない。もちろん皮をむいて食べるだけでじゅうぶんにおいしいのだけれど、毎食食卓に供するわけにもいくまい。何か他に桃をおいしく食べる方法はないものか。

 そう思案しながらスマホで検索していると、「桃とモッツァレラチーズのサラダ」というレシピが目に飛び込んできた。トマトとモッツァレラチーズの前菜というのは知っているが、桃が合うとは思わなかった。

 レシピは簡単だ。桃の皮をむき……と、ここで読者に質問です。皆様は桃の皮をどうやってむきますか? 以前、私は丸ごと左手で持ち、一カ所に切り目を入れてそこからズズッと全体をむき切るというむき方をしていた。すべての皮をむいてから切り分けるという方法だ。が、それだとどうしても、むき終わった部分を指で押さえなければならず、押さえたあとが残る。淡いピンクのむきたてピチピチの桃肌に指のあとをつけるのが忍びない。桃の熟し具合がほどよくて、包丁を差し込むとするりと自然にむけるときは、指のあとを残すことなくきれいに保つことができる場合もあるけれど、桃の機嫌というか皮との距離感はむくまでわからない。

 そこで最近は、最初に中心の種すれすれにまっすぐ包丁を差し入れて、四等分にする。四つの半月形の桃が取れる。残るは種を中心とした柱状の桃である。その上で、柱を含めて五つに切り分けた桃の皮をそれぞれにむく。このやり方だと、桃のピチピチ肌をほとんど損傷させずにきれいにむくことができる。

 そんなこと知ってますよって? あら、そうですか。ちなみに柱状の部分は皿に盛るまでもなく、上下の皮を除いたら、台所にて種ごとしゃぶることにしている。これは皮をむいた者の特権。むき賃と言えるであろう。

 閑話休題。桃とモッツァレラチーズのサラダである。

 レシピとしては、まず桃の皮をむき、一口大の大きさに切り分けてサラダボウルに入れる。モッツァレラチーズを指で小さくちぎり、桃の上にまぶす。そこへ塩胡椒、オリーブオイル、レモン汁、最後にバジルを散らしてできあがり。

 これは、いける。桃の甘味とチーズのまろやかさ、そして塩と胡椒とバジルが見事に独自の旨味を主張し、かつ融合している。まさにサラダの異業種交歓会だ。この夏、我が家の新メニューとして目下、人気急上昇中である。

 このサラダがおいしくて、なぜあっちは上手にいかないのだろうか。というのは――

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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』(新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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