感染者急増、開院を早めた国際医療福祉大学成田病院(2020年2月~3月)

執筆者:松本哲哉 2024年1月9日
エリア: アジア
外来は感染症科の医師が、入院は呼吸器内科の医師が対応した[エボラウイルス感染症など1類感染症に対応できる病床=2020年3月12日、国際医療福祉大学成田病院](C)時事
国内の医療状況が逼迫する中、国際医療福祉大学成田病院は開院日の2週間前倒しを決定した。電子カルテ操作研修は開院後という慌ただしさだったが、何より重要だったのはコロナの検査体制の整備だった。当時、PCR検査を自施設で行うには、機器や検査キットの確保などに高いハードルがあった。一方で、医療機関から保健所への検査要請は断られる例が続いていた。

 

4月1日に開院予定だった新たな大学病院

 2020年2月。すでに国内での新型コロナ感染者の報告が相次ぐ中で、社会の関心は日ごとに高まっていた。その頃、私や大学の関係者は4月1日に予定された国際医療福祉大学成田病院の開院に向けて準備に追われていた。すでに病院の職員として内定していた人は多くいたが、その時点ではまだ他の大学や病院に所属している人たちが大半であり、顔見知りはほとんどいない。準備会議の段階では誰がどのような立場の人なのかもわからないまま話し合いが続く異様な雰囲気であった。

 その一方で、新病院は着実に建設が進められていた。もともとこの病院は成田空港に最も近い大学病院として、海外から来る可能性のあるさまざまな感染症の患者に対応することが求められていた。幸い私は病院の設計の段階から関わっていたため、感染症専用の病棟や外来についてはこちらの要望を入れてもらうことができた。エボラ出血熱のような1類感染症にも対応できる第1種病棟も新たに設置された。

 建物の引き渡しはまだであったため、準備会議は使用が許可された会議室で行っていた。建物内はまさに建築中という雰囲気で、建設業者はあちこちで作業を続けており、職員はブルーシートが敷かれた廊下を遠慮しながら行き来していた。そういう中でも開院の日は着実に近づいている。「本当に予定どおり開院できるんでしょうかね?」といった言葉が会議中にもしばしば聞かれた。

3月16日に早められた開院日

 開院に向けた準備が続く中、新たな指示が出た。それは予定されていた開院日を2週間早めるということであった。多くの職員は「そんな無茶な!」と驚きの声をあげた。理由を聞くと、病院の開設に全面的に協力してくれている地元の自治体などからコロナ患者への対応を要望されてのことらしい。病院のホームページには病院長の言葉として、「現在の逼迫した国内の医療状況を鑑み、当初、4月1日に予定していた開院を3月16日に前倒しすることになりました。厚生労働省と全国の医療機関がそれぞれ懸命に対応しているなか、私たちも医療施設としての社会的使命を果たすべく、1日でも早く開院して、国民と地域住民の健康をお守りしたいというのがその理由です」と記載されている。

 ただでさえ慌ただしく準備を進めていたが、さらに混乱に拍車がかかることになった。「決定ならやるしかない。でも本当にできるんでしょうか?」。皆はカレンダーの残りわずかな日程を見ながらため息をつく状況であった。

保健所頼みの検査では対応できない

 その当時、医療機関は疑わしい患者がいた場合、疑似症として届出、検査の対象であると判断されれば、地方衛生研究所または国立感染症研究所で検査が実施されることになっていた。……

カテゴリ: 医療・サイエンス
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執筆者プロフィール
松本哲哉(まつもとてつや) 国際医療福祉大学医学部感染症学講座代表教授、国際医療福祉大学成田病院感染制御部部長 1987年長崎大学医学部を卒業後、同第二内科に入局。米国ハーバード大学留学後、東邦大学講師、東京医科大学主任教授を経て、2018年から現職。日本化学療法学会理事長、日本臨床微生物学会理事長、日本環境感染学会COVID-19対策委員長。日本感染症学会専門医・指導医。PMDA委員、AMEDプログラムスーパーバイザー、東京都iCDC専門家ボード感染制御チームリーダー等も兼務。主な著書に『新型コロナウイルス 「オミクロン株」完全対策BOOK』(宝島社、監修)、『福祉現場のための感染症対策入門』(中央法規出版、監修)、『これだけは知っておきたい日常診療で遭遇する耐性菌ESBL産生菌』(医薬ジャーナル社)、『介護スタッフのための 高齢者施設の感染対策』(ヴァンメディカル)など。
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